なぜ居酒屋では、大将の言うとおりメバルの素揚げを注文するのか
筆者が突然「隕石が落ちてくる」と言っても信じてくれないし、たぶん誰も何の行動も起こさないかと思います。それでは仮に、NASAが同じことを言ったとしたらどうでしょうか。多くの人がこの「発信」を信じ、さまざまな行動を起こすと思います。発信の内容はまったく同じにもかかわらず、どうしてこのような大きな違いが起こるのでしょうか。
答えは簡単です。発信を聞いた人たちが「この件」についての発信者の「信頼度」を見極めるからこそ「行動=発信に対する反応」に大きな違いが出てくるわけです。先般の米国の大統領選挙の際に、フェイクニュースが話題になりましたが、この場合はTwitterやFacebookが持つ「速報性」と「知る人ぞ知る情報源」という「世間の」思い込みが、発信内容の信頼度を見誤らせたケースに該当するかと思います。
発信者の信頼度を見極めるという行為は、実は皆さんもかなり日常的に体験しています。そしてその信頼度により「起こす行動が異なる」のです。当然ながら「購買」という行動にもこの信頼度は大きく影響します。
「大将っ 今日何かいい魚入ってる?」
「メバルのいいやつが入ってるよ」
「じゃ、ソレ頂戴。やっぱ煮つけかな?」
「煮つけもいいけど素揚げしてもおいしいよ」
「じゃ素揚げでっ♪」
単純で日常的に見られるお客様との「やりとり」ですが、よく考えてみるとこのやりとりにはネットショップが学ぶべきさまざまな要素が含まれています。
このケースでは、お客様はメバルの値段を尋ねてはいません。オーダーも“魚“という大まかなジャンルだけは決まっていましたが、具体的には何を食べるかを決めていません。メバルの大きさや料理の量というスペックに該当することも確認していません。そして曖昧な ”煮つけ“というデマンドはありましたが、大将の素揚げというオススメ=キュレーション力に重きをおいて自らの(曖昧な)デマンドを撤回し、正式の注文に至ったということになるかと思います。大将の立場から言うのであれば、キュレーションによってお客様のデマンドを変え「させて」しまったのです。値段も言わずに、です。
ある意味では教祖様と信者のごとく?の盲目的とでも言うべき購買行動ですが、どうしてこのようなことが成立するのでしょうか。
ここで少し考えていただきたいのですが、もしもお客様の「すべて」がこのようなお客様であったとしたらどんなことが起こりますか? たとえば仕入れた商品のロスは皆無に近くなるので、在庫管理のシクミ自体が不要となったり……他には?
では、仮にキュレーションが十分に機能している「売り場」が成立するとしたら、表現を変えればすべての提案が通る成功確率100%の営業マンが育成できるとしたら、ROI(費用対効果)的に見てどこまでの投資ができますか?
今般のコラムのテーマは、概論にはなりますが「具体策への落とし込み」ができれば強烈なリターンが期待できるテーマですので、是非とも皆さんご自身の業態にあてはめながらお読みください。