SAP HybrisでECサイトリニューアル、スノーピークに聞く
今年7月にECサイトをリニューアルした、アウトドアブランドのスノーピーク。eコマースソリューション「SAP Hybris Commerce」を採用し、レスポンシブデザイン、アパレル製品のUX改善など、スマホ対応を中心に消費者の利便性向上を実現した。同時に、マーケティングソリューション「SAP Hybris Marketing」も取り入れ、顧客エンゲージメントを強化していく方針を発表している。
ECサイトのリニューアルは、スノーピークが取り組むデジタル変革のひとつでしかない。ECリニューアル以前から、ERPソリューション「SAP S/4HANA」が稼働、予測分析ソリューション「SAP Predictive Analytics」、予算管理ソリューション「SAP BPC」、BIソリューション「SAP BO」など、SAP社のソリューションを同時に採用。これらのソリューションによる、在庫最適化、オペレーション効率化を進めている。
「我々が今後描く成長戦略において、売上が急拡大していく予定です。その急成長に耐え得る基幹システム、ECのシステムを早急に構築する必要がありました。その際、世界的にも信頼性の高いSAP製品群を採用しようと決めたわけです。
スノーピークは日本はもちろん、海外にも営業拠点を複数持っています。オンラインも含めたチャネルやロケーションの広がり、複雑化の可能性を考えると、バックからフロントまでの業務を一気通貫できるソリューションが必要でした。さまざまなソリューションを組み合わせる選択肢もありましたが、今後のさらなる事業拡大を考慮すると、オペレーションのベースラインを一気に作りたかったのです」(能亜さん、以下同)
SAP Hybrisをはじめとするソリューション導入プロジェクトは、2016年3月にスタート。1年後の2017年3月にERPが稼働し、7月にはECサイトをリニューアルしている。類を見ないスピード感に裏側の苦労がうかがえるが、「一気通貫でシステムを考えられたのはよかった」と能亜さん。例によってバグなども発生したが、2017年11月の取材時点で、それぞれのソリューションが安定稼働の段階に入ったと言う。
積み重ねてきた顧客との関係をデジタルでさらに濃く、深く
スノーピークでは「人生に、野遊びを。」をコーポレートメッセージに、ものづくりのまちとして知られる燕三条の技術を活かし、高品質なアウトドア用品を販売。保証書は一切添付せず、製造上の欠陥が原因の場合は無償で修理を行う、手厚いアフターサービス付きだ。顧客との関係を、「BtoC」ではなく「Bwith-C」と表現。キャンプ場を併設した本社では、スノーピークのスタッフと顧客がともにキャンプをし、社長も混じって語り合うという文化だ。
国内84ヶ所の店舗(2017年12月時点)で販売を行うスタッフも、キャンプを愛するキャンパー。前述のようなキャンプイベントへの案内や、ステップアップ製品の提案を直接顧客に行い、マスコミュニケーションでの宣伝は一切行わない。スタッフのキャンプや製品に関する知識は深く、顧客との関係も当然ながら濃いものとなる。
こうした“手のかかる”スタイルでビジネスを営むうち、時代がスノーピークの背中を押すように、アウトドアブームが到来。また、スノーピーク自身もアウトドア用品の物販だけでなく、アパレルブランドの展開や、地方創生コンサルティングなど事業を拡大。結果的にこの数年は、年20~30%増というペースで売上が拡大していった。
「最近の言葉で顧客エンゲージメントと言われる以前から、当社のスタッフはアナログに、そこを頑張ってきました。『今度キャンプに行かれるということでしたが、テントの立てかたをお教えしますので、ぜひお店にいらしてください』といったコミュニケーションを地道にやってきたんです。アウトドアブームに加えて、簡単・便利なだけでなく、人とのつながり、『この人から買いたい』ということを、世の中の人が求め始めたのだと思います」
ビジネスの急拡大により、個々のスタッフの経験だけにもとづく顧客コミュニケーションに限界が訪れた。経験の浅いスタッフでも、アクションが取りやすいようデジタル化を進めようというのが、今回のSAPソリューション採用の背景にもある。
また、スノーピークでは2009年からポイントプログラムを実施。直販店舗のみならず、商業施設に出店している場合でも、ひとつの会員番号にひもづいた購入履歴を蓄積してきた。オムニチャネルというキーワードが日本で流行する以前から、オムニチャネル施策を実施していたのだ。そこに今回、最先端のデジタルソリューションが投入された形である。
「プロジェクト開始から1年半の現時点では、バックエンドのオペレーションでベネフィットが出ているという状況です。今後、SAP Hybrisのコマース、マーケティングソリューションのポテンシャルが活きてくるのは、事業を横断した顧客接点の創造の部分だと考えています。現状、ポイントプログラムでアウトドア用品の購買履歴しか負えていませんが、当社のアパレルも買っている、キャンプイベントにも来ている、キャンプフィールドを利用したこともあるというお客様はすでにいらっしゃるし、今後そうなり得るお客様もいらっしゃるはずです。SAP Hybrisの機能をフル活用して、次のステップはそこを見ていきたいと考えています」
ECサイトでもリアルな接客を、実店舗は新たな役割へ
店頭での接客を、これだけ濃く、深く行ってきたスノーピークでは、今回リニューアルしたECサイトの役割をどのように考えているのだろうか。
「ECサイトについては、リアル店舗化、接客できる店舗にしたいという考えを持っています。現時点では、せっかく訪れてもらっても、お客様がご自分のペースで閲覧して、ご自分のタイミングで離脱してしまいがちです。結果、ほかのサイトと価格を比較されるといったことが起きてくる。スノーピークの製品は、高機能で耐久性が高く、アフターサービスが充実しているということを、オンライン上でも手厚く伝えたいんです。それも、押し売りとは違う形でですね。スノーピークのことをよく知ってくださっている、ファンの方だけが、ECサイトを使ってくださればいいとは考えていませんから。ECサイト上でも顧客接点を大切にするような、伝えられる仕組みをもっと盛り込んでいきたいし、SAP Hybrisにもそこを期待しています」
わかりやすい例としては、チャットツールの導入を検討していると言う。一方で、オムニチャネル施策の代表とも言える、店頭のスタッフが接客しながらECサイトを活用するといったことはすでに実施済みで、売上や評価制度の仕組みも整っている。
スノーピークは店頭販売から始まった企業ながら、実店舗の役割についての考えかたも柔軟だ。
「時代の流れとして、実店舗の売上が低下傾向にあります。ならば、店頭在庫は持たず、純粋に商品を体験してもらうスペースとして活用する、という発想も出てきます。『店舗を創造し直す』というタイミングも、そう遠くない未来に訪れる。その際に、バックからフロントまでシステムは一気通貫である必要があるし、そういう意味でSAP Hybrisは、間違いなく貢献していただけると考えています」
「人間性の回復」をミッションに掲げ、ECサイトも、実店舗も、そのミッションを実行していく上でどのような役割を果たすのか、そのためにシステムはどうあるべきかを考えているというスノーピーク。
高品質な製品と手厚いサービス、長年にわたって地道に築いてきた顧客との関係と、蓄積してきたデータ。SAP Hybrisをはじめとする一連のソリューションで、同社の目指す顧客エンゲージメントのさらなる加速が期待できそうだ。自社の取り組みをオムニチャネルと呼ばない同社が、グローバルな場で、いち早くオムニチャネルの成功企業となる未来も、そう遠くないかもしれない。