実店舗のような楽しさをECで、カインズオンラインショップ
カインズは、ご存じホームセンター「カインズホーム」を運営する企業で、2015年で創業26年を迎えた。日用品からオフィス用品、建築資材までを販売しており、2008年から始まったオンラインショップでも同様の品を揃える。ポイント連携、QRコードで購入する仕組みや、カインズブランドではない新ブランドのセレクトショップ、シニア向け「たすかる便」など、実店舗と連携した取り組みにも積極的だ。
現在、カインズオンラインショップを担当するのはeコマース事業部 Web企画部 部長の竹永靖さん。アプリやコーポレートサイト、そしてオムニチャネルも、竹永さんの担当下にある。
「私が入社したのが2010年の夏で、当時オンラインショップの売上は年商1億円くらいでした。それから5年間の間に、3回、ECのプラットフォームを乗り換えています。サイクルが短いと思われるかもしれませんが、以前の型にはまったECに比べて、今はいろいろなやりかたがあり、ブームにも流行り廃りがあるので、それに合わせて乗り換えていかざるをえないんです。
加えて、売上が数倍に伸びてきたので、売上規模に合わせて変えたというのもあります。直近で、一番最後のリニューアルは、2014年の4月です。その際に、決済方法を従来の『クレジットカード』『銀行前払い』『コンビニ前払い』『代金引換』を導入し、その後、『店舗での現金払い』を追加し、さらに2015年に『後払い決済』を加え、『不正注文検知サービス O-PLUX』も導入しています」
オンラインショップが始まって7年、竹永さんが入社して5年。このタイミングで、不正注文検知サービスを導入することになった理由とは。
「2013年あたりから、急にクレジットカードの不正利用が増え始めました。不正利用者に、『このサイトは不正ができる』と認識されると、集中的にやられてしまいますから、その対策です。不正利用が増えたのは、実店舗と同じような買いかたができるようになってからが顕著ですね。
数個買っていただくと1個あたりの単価が安くなる『よりどり○個でいくら』というサービスや、年に4回、家電や電気工具のような数万円の商品を安売りする『お宝市』を、ECでも始めたところ、流入が急激に増え、不正も目立つようになってきました。
それまでも、対策していなかったわけではないのですが、人間が目視でチェックしていたので、限界がありました。そんな時に、金融機関から『不正注文検知サービス O-PLUX』を紹介されました。
リニューアル前には、3Dセキュアを導入していたこともあったのですが、カゴ落ちも出ますし、パスワード忘れの問い合わせ等が増えますよね。それに、このスマホ時代、小さな画面での二段階認証はハードルが高すぎるでしょう。
ほかにも不正注文を防ぐサービスをいろいろと調べていたのですが、かっこ社のご担当者が、『うちはオンリーワンです』と自信を持って言われたので、話を聞いてみることにしたんです」
カインズが採用した『不正注文検知サービス O-PLUX』とは
カインズが導入した、かっこ社の『不正注文検知サービス O-PLUX』は、ひとことで言えば、ビッグデータの活用によって不正注文を事前に検知するサービスだ。統計分析手法を用いた独自のルールで、属性や「ふるまい」からあやしい注文を検知するほか、利用企業全体のネガティブデータベースを共有し、日々更新しているのが特徴。
『O-PLUX』の仕組みは非常にシンプルで、ECサイトで受注した注文データをアップロードすると、自動で「OK、NG、保留」の審査が行われるというもの。審査の基準は利用企業ごとに設定でき、そこで「保留」となったデータのみを担当者が目視で審査すればよい。
「僕がいいなと思ったのは、それぞれの企業ごとに異なる不正注文の特徴を、1つひとつ一緒にチューニングしてくれるところ。パッケージを導入して終わり、あとはEC事業者で運用してくださいだと、そのチューニングは不可能ですから」
実は竹永さん、通販業界歴は20年の超ベテランで、『O-PLUX』についてもサービス自体は知っていたという。ソリューションを見る目も肥えた竹永さんから見ても、魅力的なサービスだったわけだが、はじめに説明を受けてから実際に導入するまで、1年ほど時間がかかった。
「いろいろ検討や調整に時間がかかったというか(笑)。不正注文を100%防げるなら即導入してもよいとのことだったんですが、さすがにそれは難しいという説明だったので。ルールのチューニングで精度を高めていくという方法もあるわけですし。
人間の目で、目視でチェックするのと比べたら、工数としても大きな改善になるでしょうし、そもそもそのチェック作業を、人間がやることに意味があるのかという視点から説得しました。カスタマーサービスの部署の者が、毎朝、全件の注文をチェックしていましたからね」
『不正注文検知サービス O-PLUX』の導入が決まると、EC事業者がやるべきは、自社なりの「不正注文のルール」を設定することだ。
「そこは、カスタマーサービスの部署に一任しました。彼らが一番、困っていて、情報を持っているので、直接かっこさんに相談してもらうことにしたんです。家具や家電が狙われやすそうだから、あらかじめルールの中に組み込んでおく、といったアドバイスはしましたけれど。僕の仕事としては、不正防止率を具体的にどう上げていくか、KPIのような数値目標を作ることです。そこが握れるかどうかで、サービスを導入したことへの評価が決まってくるでしょうから」
カインズ全体のウェブ戦略の中で、ECが果たす役割とは
カインズホームの実店舗には、以前から訪日外国人観光客が数多く訪れているが、最近では、カインズオンラインショップへの越境購入も増加しているという。
「インバウンド観光客の方は、宿泊しているホテル留めの通販をよく使われますね。そこはチェックが入るように設定していて、注文が入ったら、本当に宿泊しているのか、カスタマーサービスから電話をかけるようにしています。
オンラインショップ利用者のうち、数%にも満たないのですが、とにかく金額が大きい。今では購入できない設定にしていますが、電動工具を数十個なんて注文もありましたからね。転売などへの対策も含めて、『O-PLUX』を採用したというのもあります」
通販歴20年の経験を活かし、柔軟かつ大胆な手腕で実店舗ありきのECサイトを運営している竹永さん。今後のカインズオンラインショップの展望とは。
「もちろん、売上はどんどん伸ばしていかないといけないのですが、日雑品を扱うECのほとんどが、売上高は高くても、儲けは少ないという現状があります。越境ECやインバウンド観光客のニーズが増えているといっても、それが来年も必ず続くかはわからない。その実情を踏まえると、従来のやりかたで、ECで日雑品を販売していっても限界があるので、そこにどう手を打っていくかですね。
もうひとつ、カインズ全体で見れば、いま、実店舗が200店舗あるのですが、同社が扱う商品の一ジャンル、DIY、ガーデニング、日雑品などの専門事業者さんがたくさん出てきています。その一ジャンルごとのコンペティターとどう違いを出して戦っていくか、それがカインズの全体も含めたウェブ戦略ではないか。さらにその中でECはどういうふうに生き残るのかを考えたいと思います」