既存のファンコミュニティにアプローチできるチャンス
アダストリアは2024年6月、若手クリエイターのブランド作りを支援する「LEAD PROJECT」を始動した。現在、同事業を通じて生まれた三つのアパレルブランドを、自社ECサイト「.st(2024年10月23日より『and ST』に名称変更)」で販売している。LEAD PROJECTを手掛ける村岡氏は、セッション冒頭で立ち上げ理由をこう語った。
「きっかけは、コロナ禍におけるアパレル業界のEC化率向上と、インフルエンサーをはじめクリエイターが立ち上げたD2Cブランドの台頭です。こうした変化を、脅威ではなく新たな市場を生む機会だと捉えたほうが、新鮮な企画を作れるのではないかと考えました。そこで、チャレンジの一つとして構想したのが若手クリエイターとの共創です」(アダストリア・村岡氏)
様々なゲームを開発してきたカプコンも、自社が保有するIP(知的財産)を再構築したアパレルブランド「AND CHIPS」を2024年4月に立ち上げた。現在、クリエイターとともに開発した商品をカプコンの直営店舗やECサイト「ONLINE PARCO」などで販売している。コンセプトの「カケラ、カケザン。」には「同ブランドを共創の場として、関わった一人ひとりが新たなストーリーを描いていく」との想いが込められているという。
「当社では、以前よりゲームファン向けにキャラクターをプリントしたTシャツなどを販売していました。そんな中で、今後は当社のゲームを知らなくても、ファッションとして楽しんでもらえる商品を作りたかったのです」(カプコン・奥山氏)
2社が“共創”にこだわる理由の一つが、新たな顧客との出会いだ。アダストリアの村岡氏は「各クリエイターがもつ独自のコミュニティにアプローチできる点がメリット」と説明する。
「既に集まっている熱いファンに向けてブランドを展開できるのは、大きな強みです。当社では、ファンとの関係性を築いている、かつ『こんなブランドを作りたい』と具体的なビジョンをもっているクリエイターにオファーしています」(アダストリア・村岡氏)
村岡氏と同様に、カプコンの奥山氏も「コラボレーションによってクリエイターの夢をかなえるだけでなく、応援しているファンに喜んでもらえる」と語る。
「クリエイターのファンたちがSNSで拡散してくれるため、今まで関わりをもてなかった顧客層にまで情報を届けられます。AND CHIPSの立ち上げにあたって、私も一人のファンとしてコミュニティの理解を深めるようにしていました。また、どのようなコミュニティが盛り上がっているのかSNSでチェックし、得られた情報をもとにクリエイターへ直接メッセージを送って共創につながった例もあります」(カプコン・奥山氏)