精神的なトラブルを抱える従業員を減らしたい
「お客様は神様です」。一昔前まで、この言葉にとらわれ、従業員が顧客からの理不尽なクレームや言動に耐える状況は珍しくなかった。しかし、時代は変わり、厚生労働省が2020年1月に発表した「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」では、顧客からの暴行や不当な要求などの著しい迷惑行為がある場合、事業主は雇用者からの相談に応じ、適切な対策や被害者への配慮、被害防止の取り組みを講じることが有効だとされた。2022年2月には、同省が「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を作成し、カスハラ対応の基本枠組みを示している。
カスハラの認識の浸透と国の動きを受け、DMM.comは2022年8月から先行企業の調査や現場のヒアリング、事例アンケートを開始。2023年8月に「カスタマーハラスメントに対する基本方針」を発表し、「従業員を守る」姿勢を社内外に打ち出した。
策定に関わった牛丸氏は、2017年の入社時からカスタマーサポートに従事しているエキスパートだ。現場で顧客対応を学んだ後、サポートセンター拠点の一つ、金沢センターの運営業務を管轄するなど現場オペレーションから組織運営、マネジメントまで幅広く経験してきた。
現場を知る牛丸氏自身、酷いカスハラに悩まされたことがある。1日で終わらない長引くクレーム対応に、「翌日もお客様から強く当たられるとわかっているため、仕事に行くのがゆううつに感じたこともあった」と振り返る。
牛丸氏が社内でヒアリングする中でも、顧客から大声で怒鳴られる、「バカ」「何のために生まれてきたんだ」と暴言を吐かれるといった従業員からの声があった。
一方で、DMM.comのカスタマサポート部の従業員は、正社員・アルバイトを問わず、カスハラの発生を認識して入社するケースも多いという。
「サービスを受ける中でトラブルが発生した顧客と対峙する仕事であるため、電話対応など一つの案件中にクレームをいわれたり、厳しい指摘に対応したりするケースは当然あります。それによって従業員の気分が多少上下することは、職務特性の範囲とも捉えられます」
それでも、ヒアリングの結果、牛丸氏の予想を上回る影響を受けている社員がいることも明らかになった。
「見逃してはいけないのが、カスハラによる従業員の不調や変調です。『眠れなくなった』『人との会話が怖くなった』と訴える従業員がいるなど、場合によっては業務外の時間や今後の人生にまで影響してしまう可能性もあります。そのようなトラブルを抱える従業員を減らしたいという思いが、対応方針策定の背景にありました」