一般ユーザーの購買チャネルのデジタル化が進んだ近年においては、EC市場に参入する企業はますます増加しています。EC市場は世界的に見ても拡大傾向にありますが、今後の市場傾向はどのように変化していくのでしょうか。
本稿では、国内外のEC市場規模について解説し、今後の市場動向についても論考しますので、ぜひ参考にしてください。
そもそもEC市場とは?
そもそもEC市場の定義とは、「EC(E-Commerce)」で取引される市場全般です。一般的には、特定の市場においてEC関連のビジネスが発生している領域を区分するために用いられます。
近年は、一般ユーザーの購買チャネルのデジタルシフトが急速に進んでおり、新型コロナウイルスの感染拡大を機に、その流れはより一層顕著になりました。日本国内におけるEC市場も拡大傾向にあり、特に後述する物販系領域のEC市場の伸びには目を見張るものがあります。
特定領域の商取引においてEC市場が占める割合は「EC化率」と定義されており、以下の計算式で算出可能です。
EC化率= EC市場における取引額 ÷ 全商取引の総額
EC化率の数値は「どれだけ多くのユーザーがECで購買するのか」を推測するための材料になります。自社でEC市場への参入を検討している場合、判断材料のひとつになるでしょう。
日本のBtoCにおけるEC市場規模の現状
日本のEC市場は3領域に分けられており、それぞれ以下のとおりです。
- 物販系EC市場
- サービス系EC市場
- デジタル系EC市場
各市場の特徴について、細かく見ていきましょう。
物販系EC市場
前述のように、物販系の分野は日本における成長が特に目覚ましいEC市場です。経済産業省の「電子商取引に関する市場調査」によると、特に市場規模が大きい上位5領域は、以下のとおりです。
- 1位…食品、飲料、酒類(約2兆5,199億円)
- 2位…生活家電、AV機器、PC・周辺機器など(約2兆4,584億円)
- 3位…衣類・服装雑貨など(約2兆4,279億円)
- 4位…生活雑貨、家具、インテリア(約2兆2,752億円)
- 5位…書籍、映像・音楽ソフト(約1兆7,518億円)
1位の「食品、飲料、酒類」は、コンビニやスーパーなど実店舗で買い物をするユーザーも多く、EC化率は約3.77%と低い傾向にあります。それでもなおトップの売上を記録していることから、この市場のポテンシャルはまだまだあると見込めるでしょう。
2位「生活家電、AV機器、PC・周辺機器など」と3位「衣類・服装雑貨など」、4位「生活雑貨、家具、インテリア」ついては、もともと市場規模が大きく、EC化率も高い傾向にあります。さらに、新型コロナウイルス感染拡大を機にオンライン購入の需要が増えたことを受け、利用率が上がったと推測できます。
5位「書籍、映像・音楽ソフト」のEC市場規模における紙媒体の書籍は、近年減少傾向 にありました。しかし、実物の書籍と 電子書籍の使い分けを行うといった消費者行動の変化や巣ごもり需要の増加で、全体の市場規模は以前の水準まで戻ってきています。
現状としては、紙媒体やDVD、ブルーレイなどの市場規模は減少傾向にあるものの、電子書籍のほか、映像・音楽ソフト(オンラインコンテンツを除く)については拡大傾向にあるため、今後は双方の市場が共存する可能性が考えられるでしょう。
サービス系EC市場
サービス系のEC市場では、新型コロナウイルス感染拡大の影響で大きな打撃を受けた「旅行サービス」が依然大きな割合を占めており、市場規模は約1兆4,003億円です。また、「チケット販売」の市場規模が前年の大幅下落から回復しつつあります。
2020年から計上に加えられている「フードデリバリー・サービス」は、感染症対策の需要増も相まって、2021 年は前年比 約37.48%増と大幅に増加しました。しかし、今後外食文化が回復すれば、比例してフードデリバリーの利用頻度が減り、成長が頭打ちになる可能性もあるでしょう。
デジタル系EC市場
デジタル系市場とは、オンラインゲームや電子出版などを扱う市場です。特にオンラインゲームの領域は、2021年時点で約1兆6,127億円と大きな売上を記録しました。
オンラインゲームの市場規模が拡大している背景には、プロゲーマーの世界的な増加に加え、競技としてゲームを行う「e スポーツ」文化が根付いたことがあります。
デジタル系市場で、オンラインゲームに次ぐ規模感の市場が「電子出版(電子書籍・電子雑誌)」です。2021 年は成長がやや鈍化しましたが、新型コロナウイルスの感染拡大による「巣ごもり需要」で利用を始めたユーザーが定着し、安定的な売上を見せています。
なお、電子出版市場においては、8割以上のシェアを「電子コミック」が獲得しているとのことです。
このように、デジタル系分野のEC市場では、ユーザーにとって「おうち時間」と親和性の高い市場の規模感が拡大しているとわかるでしょう。
日本のBtoBにおけるEC市場規模の現状
日本のBtoB領域のEC市場に目を向けると、2021年は約372 兆 7,073 億円(前年比約11.3%増)で、BtoBでも着実にEC市場での取引額が伸びていることがわかります。
BtoBといっても業界を細分化すると各領域で違いはあるものの、全体感を捉えると以前より業務効率化やペーパーレス化の流れは起こっていました。特に、卸売業においては「EDI」と呼ばれる電子データ交換の技術を用いて、受発注情報のやり取りを行う体制が整ったことでより顕著になっています。
なお、BtoBのEC市場規模の業種別内訳については、以下のとおりです。
日本のBtoB企業では、長年形成されてきた組織体制からの脱却が課題になりがちですが、近年はニューノーマルな働き方や労働生産性の向上を目的にしてDXの必要性も説かれています。
今後、BtoB領域でDXが進み、製品受発注のEC活用が盛んになれば、まだまだ伸びる余地のある市場といえるでしょう。
世界のEC市場規模
ここからは、世界全体のEC市場規模について紹介します。日本市場との違いを比較しつつ、事業展開の参考にしてください。
世界のEC市場規模とEC化率はどのくらい?
以下の図表は、世界のBtoCのEC 市場規模の推移を表したものです。2021 年の世界の BtoC-EC 市場規模は約 4.92 兆 US ドル、EC 化率は 約19.6%と拡大傾向にあり、世界的にも、新型コロナウイルス感染症拡大を契機としたデジタルシフトが進んでいるといえるでしょう。また2025年までの予測においても、市場規模の拡大とEC化率の上昇が予想されています。
国別のEC市場シェアに目を向けてみると、中国が全世界の約52.1%と非常に大きなシェアを占めています。続いて米国が約19.0%のシェアを占めており、この2国で実に7割以上のシェアを実現しています。
今後も世界的なEC市場規模の拡大が見込まれるため、日本企業にとっても国内に留まらない商圏拡大が重要になるでしょう。
越境ECの市場規模は?
企業がEC事業を海外展開する取り組みは「越境EC」と呼ばれ、近年世界的に注目を集めています。
2019年時点で約7,800億米ドルだった世界の越境EC市場規模は、 2026年には約4兆8,200億米ドルまで拡大が見込まれており、さらなる成長が期待されているところです。
経済産業省の資料によると、2021年に日本が越境での買取りに使われた金額は3,727億円、売った金額は3兆3,606億円と方向されており、多くの商品が国外向けに販売されたと分かります。
同資料では、越境ECで日本商品が購入される理由として、以下の内容が挙げられています。
- 1位…自国で購入できないから (約77%)
- 2位…価格が安いから(約37%)
- 3位…品質が良いから(約31%)
- 4位…日本ブランドに安心を感じるから(約26%)
上記からも、越境ECで日本特有の商品を展開すれば、十分に売上拡大の余地があることがうかがえます。ただし、国や地域によって商習慣や法規制などが異なるため、越境ECに取り組む際には事前調査が必要です。
今後の日本のEC市場規模はどうなる?
日本国内のEC市場規模を見てみると、直近10年間の平均成長率は8.7%で22年連続の成長であり、今後も成長し続ける見込みです。株式会社野村総合研究所が2020年に発表した「ITナビゲーター2021年版」によると、2026年のEC市場規模予測は約29.4兆円とされています。
このように継続的な成長が見込まれている市場ですが、裏を返せばそれだけ多くの企業が参入し、市場がコモディティ化する恐れも秘めているといえます。参入するだけでは競合他社との差別化はできないため、豊富な選択肢を有する消費者から自社商材が選ばれづらくなる可能性もあるでしょう。
EC市場において継続的な売上拡大を目指すためには、前述の越境ECに加え、「よりユーザーニーズに寄り添った価値の創出」「実店舗との相互送客を図るO2O(Online to Offline)施策」など、より多角的な事業展開が求められます。
まとめ
国内外を問わず、EC市場規模は今後も継続的な成長が見込まれています。とはいえ、物販系やサービス系、デジタル系など、領域ごとに特徴や需要が異なるため、今後は頭打ちを迎える領域もあるでしょう。
しかし、デジタルシフトが進む時代において、EC市場への参入は意義深い取り組みといえますので、積極的に検討してみましょう。