家具ブランド「マスターウォール」が動画コマース推進
2021年で創業60周年を迎えたAKASE。婚礼家具を中心とした桐箪笥の生産から始まり、2006年1月に、美しい木目と重厚な質感で知られるウォールナット材のファニチャーブランド「マスターウォール」を立ち上げた。
100年後の人たちにも愛着を持ってもらえるような家具づくりを目指し、本社のある岡山、東京、大阪など8つの直営店をかまえるほか、自社EC、Amazon.co.jp、楽天市場の3つのオンラインショップを展開している。
2012年に自社ECサイトを立ち上げ、Instagramアカウントの運営も始めるなど、デジタルへの取り組みが早かった同社だが、コロナ禍により、さらに積極的にデジタル活用を進めることになった。インスタライブ、YouTube、そして動画コマースなど、動画活用は力を入れている施策のひとつである。
動画コマースの目的や取り組みかた、現時点での成果とそれを踏まえた今後の展望について、マーケティング 部長 大滝創さんに話を聞いた。
コロナ禍きっかけに、インスタライブやZoom接客開始
大滝さんは2006年、AKASEに入社。マスターウォールのブランドをより強くしていくため、マーケティング職を選び、ウェブ解析士を取得。2012年の自社ECサイト立ち上げに携わった。その後、ECサイトリニューアルは2回行われており、直近のリニューアルは2020年12月。ecbeingによって構築されている。
ECサイト立ち上げと同時期にInstagramアカウントの運用を開始と、デジタルへの取り組みが早かった同社だが、コロナ禍によりデジタルの活用はさらに加速した。
「直営店やショールームの来店数が著しく減少した一方で、オンラインショップの売上が昨年比で倍になるといった変化がすぐに起きました。外出自粛でご自宅にいらっしゃる時間が増え、その時間を大切にしたいとの思いから、インテリアへの関心が高まったのではないでしょうか。マスターウォールでは、音響スピーカーやフレングランスなども取り揃えております。やむを得ないこととはいえ、ご来店いただき、マスターウォールの家具を体感していただく機会が減ってしまったことは課題でした。その代わりになればと始めたのが、インスタライブやZoom接客です」
岡山に本社があることもあり、全社会議ではオンライン会議システムを利用、社員の抵抗はなかった。いわゆるZoom接客を早々に開始し、コミュニケーションをとるだけでなく、顧客の自宅の図面を用いた家具のコーディネート提案なども行っている。
デジタル接客と同時に、リアルでしか体験できないサービスも提供開始した。
「家具の座り心地のような体験はリアルでしか提供できません。そのため、お客様のご自宅に家具をお運びしてスタッフがご説明する、家具のお取り寄せして試していただく、洋服で言えば試着のようなサービスも同時に開始しています。お越しいただけないのであれば、こちらからおうかがいしようという取り組みです」
デジタルで接触してから来店 スタッフや店舗に親しみ
マスターウォールのYouTubeアカウントにアップされている、もっとも古い動画は2014年のもの。その後、商品紹介や家具のメンテナンス方法の動画などが続くが、2021年の「【一問一答】インテリアのプロに50の質問:前半」を機に、店舗スタッフの登場頻度が高まる。
「ローカルのテレビCMなども放映していたことから、動画制作・活用の実績は長く、動画制作専任のスタッフもおります。社内で『動画をやってみたいか』と尋ねると、自ら手を挙げるスタッフが出てきてくれました。一問一答の動画は直営店の店長が登場しています。新しいことに挑戦したいという者がいれば、積極的に背中を押す社風です。ドローンの資格を取得する者もおります」
マスターウォールの動画を中心としたデジタル接客の目的は、顧客の利便性向上だ。顧客がその時々で都合の良い、接客スタイルを選べるよう、環境を整えることに注力している。売上向上よりは、カスタマーサクセスの一環としてとらえている。
コロナ禍を受けて迅速に取り組んだデジタル接客により、リアルでの接触が難しい場合にデジタルで顧客とのコミュニケーションが行えるようになっただけでなく、他にも良い点が見つかった。
「家具の価格帯や店舗の雰囲気から、敷居の高さを感じ、入りづらいと感じていらっしゃるお客様も一定数いらっしゃいました。ライブ配信やデジタル接客を行うことで、どのようなスタッフがいるのか、人柄はどうか、提供しているサービスにはどのようなものがあるか、といったことをお客様に事前に知っていただけるようになりました。ご来店の際に、『ライブ配信に出ていましたよね』といったお声がけをいただくことも増えています」
会社も動画活用を支援し、社員も動画制作や出演に積極的と、追い風ムードのマスターウォール。YouTubeやIGTVなどで活用している動画データを最適な容量に圧縮し、自社サイトでストリーミング配信できる「visumo video」を導入し、自社ECサイトでの動画コマースに踏み切った。
「代表からも動画コマースをやりたいという話が出ており、いくつかサービスを探していました。自社ECサイトを構築したecbeingさんからご紹介いただき、『visumo video』を知りました。ECサイトから離脱せずに動画を見続けることができる点に魅力を感じ、導入させていただきました」
動画出演がモチベーションになる会社づくりへ
「visumo video」を導入し、動画コマース化を進めてからまだ日が浅いが、すでに成果も生まれている。
「直営店とオンラインショップで、こたつの販売を始めました。コタツのメーカー様とともにインスタライブを配信し、そのアーカイブを自社ECサイトに掲載しました。商品の展示について、リアル店舗では一部でしか行っていなかったのですが、展示を行っていない店舗でもお客様から引き合いをいただきました。ライブ配信や動画を視聴した後、リアル店舗に来店してくださるお客様が一定数いらっしゃる手応えを感じています」
すべての商品について紹介動画があれば理想的だが、制作には時間もコストもかかり現実的ではない。動画化の優先順位はどのように決めているのだろうか。
「当社で制作している家具のうち、人気のあるものから動画制作を進めています。季節物や、店舗と連動してキャンペーンを行う場合は優先します。動画の本数がそれほど多くないため、増やしていきたいですね。動画コマースは、素材の質感や動きがあるものを伝える場合に有効だと思います。会話形式の動画は、写真とテキストのみで伝えるよりも、より多くの方に興味を持っていただきやすいのではないかと考えています」
コロナ禍をきっかけにリアル中心だった企業がデジタル活用に乗り出した。大滝さんも、オンラインとオフラインの融合、すなわちOMOは今後ますます進むと考えている。
「動画をご覧になって来店されるお客様が増えていますから。今後は、スタッフが出演した動画から商品が売れるといったことも増えていくでしょう。自分が出演した動画の成果について、自ら尋ねてくる者もいます。動画出演がスタッフのモチベーションアップにもつながるような職場にしていけたらと考えています」
直近の動画活用施策としては、TikTokに挑戦している。新しいことに積極的だが、やみくもに取り組んでいるわけではなく、マスターウォールというブランドを強くしていくことが大目的だ。
「家具は生活の中に実際にある、デジタルにはないモノです。メンテナンス方法をお伝えする動画や、家具のお取り寄せ試着サービスなどの取り組みは、よりブランドを感じていただきやすいのではないでしょうか。アナログなモノをデジタルで広く発信し、お客様のご都合の良い時に見ていただけるという接点は、今後、ブランドには欠かせなくなっていくのではと考えています」