「ユニファイドコマース」は顧客1人ひとりの価値ある購入体験を提供することを目的としたマーケティング手法です。顧客情報を効果的に活用していくことで、それぞれの顧客に対応したアプローチを行えるのが特徴だといえます。顧客の好みやニーズなど、AIを活用することで適切に把握し、最適なタイミングで情報を提供していきます。
この記事ではオムニチャネルの定義やOMOとの違い、具体的な事例などを解説します。
ユニファイドコマースとは?
ユニファイドコマースを正しく理解するためには、関連しているオムニチャネルやOMOとの違いをおさえておく必要があります。
まずは、どのような特徴があるのかを見ていきましょう。
ユニファイドコマースの定義
ユニファイドコマース(Unified Commerce)は、「統一された商取引」という意味を持つマーケティング手法です。ほかの手法とは異なり、オンライン・オフラインといった概念にこだわらず、「顧客に価値ある購入体験を提供する」といった意味合いで用いられます。
ユニファイドコマースでは、これまで取得した顧客情報や購入履歴、閲覧・行動履歴や在庫情報、そしてECサイトや実店舗での顧客情報などを統合して活用します。顧客1人ひとりの購入体験に軸足を置き、パーソナライズ化された情報提供を行うことで、顧客満足度を高めていきます。
顧客の好みやニーズに合わせてきめ細かなアプローチを行うことで、最適な提案をすることがユニファイドコマースの目的です。顧客側からすれば、特別な接客を受けているような体験ができ、長く愛用していく動機へと結びついていくでしょう。
オムニチャネルとの違い
オムニチャネルとは、顧客との接点をできるだけ多く持つために、複数のチャネル(流入経路)を持とうとする取り組みです。オンライン、オフラインを問わず、顧客はさまざまな経路から同様のサービスを受けることができます。
いつでもどこでも商品を購入できることから、顧客ロイヤリティ―(顧客が商品やサービスに対して抱く信頼・愛着)の向上などに効果的なマーケティング手法といえるでしょう。
一方のユニファイドコマースは、オムニチャネルの仕組みに顧客1人ひとり対応したきめ細かなアプローチを加えた手法です。オムニチャネルよりもパーソナライズ化されたアプローチが可能で、顧客の購買体験をより価値の高いものにする効果があります。
OMOとの違い
OMO(Online Merges with Office)は、オンラインとオフラインの融合を指しています。基本的な仕組みとしてはユニファイドコマースと大きな違いはありませんが、OMOではユーザーの利便性を高めることで売上アップを図ります。
一方、ユニファイドコマースでは顧客体験の充実までを目的に入れているため、OMOよりもさらに踏み込んだ概念であるといえるでしょう。AIを活用するからこそ可能な取り組みであり、統合されたデータベースの構築がユニファイドコマースにおいては重視されます。
ユニファイドコマースを実現すると得られる効果
ユニファイドコマースを実現することで、顧客1人ひとりに合わせた適切な接客やアプローチが行えるようになります。たとえば普段はECサイトしか利用していない顧客であっても、実店舗を初めて利用した際に、まるで常連客が受けるような特別感を得られるなど、顧客満足度向上につながるのです。
ECサイトで商品を購入したことがある顧客の場合、事前に顧客情報や購入履歴などの情報を得ることが可能です。そのため、初めて実店舗を訪れた顧客に対して、「購入された商品の使い心地はいかがでしょうか」「お使いの商品の新シリーズが発売されました」など、一歩踏み込んだアプローチを行うことができます。
統合されたデータを共有できる環境を店側が構築しておくことで、初めて来店した顧客に対してもきめ細かな接客を行える点は、ユニファイドコマースを導入する大きな効果といえるでしょう。
ユニファイドコマースに必要となるもの
ユニファイドコマースを具体的に実施するためには、「統合データベースの構築」と「パーソナライゼーション」が不可欠です。
それぞれのポイントについて、詳しく解説します。
統合データベースの構築
ユニファイドコマースを実施するためには、オンラインとオフラインの情報を統合したデータベースの存在が欠かせません。ECサイトと実店舗でそれぞれ顧客情報などを管理するのではなく、どのチャネルでも共通した情報を得られる環境の構築が必要です。
統合したデータベースを活用すれば、きめ細かなサービスの提供や広告出稿の適切なタイミングなどがわかります。
データベースを構築するために最初はまとまった予算が必要であっても、中長期的に見れば無駄な広告コストを削減でき、顧客満足度の向上につながっていくでしょう。
パーソナライゼーション
ユニファイドコマースは、顧客1人ひとりの情報をもとにして、最適なサービスを展開していくマーケティング手法です。顧客という広い枠組みでとらえるのではなく、個人として認識することに重要性があります。
顧客体験を充実させることは、顧客ロイヤリティを高めることにつながるだけでなく、自社のブランディングにも効果的です。自社の商品やサービスを長く愛用してくれる動機を生み出すことで、競合他社との差別化を図ることができるでしょう。
魅力的な商品やサービスを開発するだけでなく、パーソナライゼーションに軸足を置いた販売戦略を立てることが重要です。
ユニファイドコマースの事例
ユニファイドコマースの基本的なポイントを理解したら、具体的な取り組みとして実践している企業の事例も把握しておきましょう。
ここでは、各企業の取り組みについて紹介します。
TSIホールディングス
株式会社TSIホールディングスは、「nano・universe」や「MARGARET HOWELL」といった50を超えるブランドを持つアパレル企業です。ユニファイドコマースに取り組むことで、従来はECサイトでの販売に注力してきた流れをECサイトと実店舗で共通の購入体験ができるように変化させています。
2021年3月からオンラインで開始した「試着予約サービス」では、試着したい服やグッズを指定できるだけでなく、日時・店舗・対応スタッフを指定することも可能です。試着予約サービスを活用して商品を購入した割合はおよそ80%となるなど、高い成果をあげています。 また、提供しているアプリでは来店時のポイント付与機能に加えて、スタッフが顧客ごとにおすすめの商品を紹介する取り組みを行っている点も特徴的です。
さらに同社では、「HERO」と呼ばれるオンライン接客ツールを導入しており、顧客はテキストでのメッセージだけでなく、チャットやビデオ機能を使いながらスタッフと直接やりとりを行えます。 在庫の確認や商品の問い合わせなどもスムーズで、顧客満足度の向上につながっているといえるでしょう。
Cue Clothing
Cue Clothingはオーストラリアのアパレル企業であり、ユニファイドコマースの実施に積極的です。ECサイトで購入をした商品を実店舗で受け取ることができ、料金の後払いにも対応しています。
実店舗から顧客が指定した場所へ配送したり、すべてのチャネルから横断的に在庫検索が行えたりするため、顧客満足度の向上につながっているのです。
また、実店舗のスタイリストと自宅にいる顧客をZoomでつなぐことで、スタイリングに関する悩みの相談にも対応しています。単にスタイリストと顧客が会話をして終わりではなく、統合データベースを構築しているからこそ、顧客1人ひとりの好みやニーズに合わせた提案を行うことが可能となっているのです。
Cue Clothingは一連のユニファイドコマースの取り組みによって、オンラインで接客した60%以上の顧客を実際の購入にまで結びつけています。
ベイクルーズ
ベイクルーズはアパレルや雑貨を販売しているセレクトショップで、ファッション関連の実店舗だけでも300店舗を超えています。自社ECに注力してきた流れにユニファイドコマースを取り入れることで成果をあげている企業です。
ECサイトのベイクルーズストアにおいては、ビジュアルAIテクノロジーである「Syte」を導入しています。雑誌の画像などから顧客がほしい商品をAIで認識することにより、ベイクルーズストア内でイメージに合うものを検索できるサービスで、顧客満足度向上に寄与しています。
Styleでは、「ほしい服のイメージはあってもどのように検索すればいいかわからない」といったニーズなど、顧客1人ひとりの多様なニーズに合わせた最適な提案が可能です。また、ほしい商品に合わせたコーディネートの提案を行得ことも可能で、オンラインでありながらも、まるで実店舗でコーディネートをしてもらっているようなサービスを受けられます。
実店舗においてもStyeの導入が進められているなど、ユニファイドコマースについて積極的な取り組みが見られる企業といえるでしょう。
まとめ:顧客体験を充実させて競合他社と差をつけよう
ユニファイドコマースは、顧客1人ひとりの好みやニーズに沿ってアプローチをしていくマーケティング手法です。単にオンラインとオフラインでの販売といった側面だけでなく、顧客情報を活用したきめ細かな対応に特徴があります。
顧客に対して価値ある購入体験を提供することで顧客満足度を高め、自社の商品やサービスを長く好んでもらえる環境づくりに活かせるはずです。
ユニファイドコマースの基本的なポイントや各企業の取り組みなどを踏まえたうえで、自社に合った取り組みを進めていきましょう。