日本の輸配送業界が直面する“ふたつの課題”
日本の輸配送業界は、
- 積載率の低さ
- 運転以外の業務での拘束時間の長さ(例:倉庫に荷物が到着した後の待機・積み込み・荷下ろしといった荷役作業)
- 多重下請け構造による低い収益性
といった課題を抱えており、その中でも「2024年問題」と「脱炭素化問題」は喫緊の課題とされています。
トラックドライバー不足はすでに社会問題となっています。長時間で過酷な労働環境に加えて、多重下請け構造で労働に見合った適正な収益が労働者に分配され難い環境にあり、若年入職者が減少して就業者の高齢化が進んでいます。
新型コロナウイルスの感染拡大による巣ごもり需要で宅配便取扱個数は増加したものの、消費や生産の落ち込みにより、日本国内の貨物輸送の荷動きは鈍化しました。これにより、一時的にドライバー不足は緩和され、高騰が続いた運賃も下落しています。ただし、これはあくまで一時的な現象で、荷動きもすでに回復基調にあります。今後経済活動が本格的に回復するにつれて、ドライバー不足やそれにともなう運賃上昇といった課題が再び深刻化することが予想されているのです。
令和元年度におけるトラックドライバーの平均年間労働時間は、大型トラックドライバーが2,580時間、中小型トラックドライバーが2,496時間で、全産業の平均2,076時間に比べると、トラックドライバーはかなりの長時間労働です。
この問題を解決するために、トラックドライバーへの時間外労働時間の上限(960時間)が2024年4月より適用されます。トラックドライバーの就業者人口の減少に加えて、労働時間の上限規制で1人ひとりのドライバーの稼働時間が大幅に減少することにより、業界全体として配送キャパシティが大幅に減少する見通しです。配送費の急騰と輸送能力の限界で「運べない」、そんな将来がすぐそこまで来ています。これが「2024年問題」です。
脱炭素化問題に代表される環境規制への対応も益々重要性が増しています。気候変動の影響は年々深刻化し、環境・社会および人々の生活・企業活動に大きな影響を及ぼすようになっています。世界全体で温室効果ガスの排出削減を進めていくパリ協定が締結され、日本は2050年までに“ネットゼロ”を目指すことが発表されました。つい先日COP26が閉幕し、石炭火力の段階的削減などを盛り込んだ成果文書が採択されたのは、記憶に新しいところです。
日本のCO2排出量に占める運輸セクターの比率は約2割と高く、その約半分を貨物自動車が占めていますが、貨物自動車のCO2排出量は積載率の低下等を背景に、ここ数年改善が進んでいません。車両の電動化や燃費の劇的な向上が期待されていますが、技術・インフラ・コスト面で課題となるため、すぐに全面的な導入とはならないでしょう。今後は脱炭素コストの負担による潜在的な配送費の増加も懸念されており、脱炭素化へ向けた取り組みは、物流企業にとって経営課題のひとつとなっています。
環境変化への対応が強く求められる今こそ、これまで進捗してこなかった「物流DX」、即ち「機械化・デジタル化を通じて、情報を見える化し、作業プロセスを標準化することにより、既存の非効率なオペレーションを改善するとともに、物流産業のビジネスモデルそのものを変革する(総合物流施策大綱)」を推進する好機ともいえるのではないでしょうか。