「囲い込み戦略」の限界
PayPal(本社:シンガポール、以下「ペイパル」)は、ジャパンEコマースコンサルタント協会(JECCICA)とともに、中⼩EC企業の今後の指標となる戦略の⽅向性を提⽰すべく、「中⼩EC企業向け・2016年EC戦略⽩書」を公開した。この⽩書は、ペイパルが2万⼈の消費者と1000社を超える中⼩のEC企業を対象に実施した⼤規模調査の結果と、JECCICAのコンサルタントの知⾒に基づいている。
経済産業省が2015年5⽉に発表した電⼦商取引実態調査によると、Eコマースは2014年に流通総額が12.7兆円に達し、2021年で2014年の倍となる25兆円を超えると予想されている。しかし、現在の顧客を永続的に固定客化させる従来の「囲い込み戦略」の機能不全化や、ECサイト内のどこかのステップで買い物を⽌めてしまう「カゴ落ち」などが要因となり、多くの中⼩ECサイトの売上成⻑は限定的となっている。
モールの寡占状態の市場において、中⼩のECサイト利⽤率は7.3%。モールや⼤⼿のECサイトを利⽤する主たる理由が「普段使っている」からであるという消費者の動向を踏まえ、中⼩のECサイトが顧客戦略を進めることが重要になる。今回の調査では、リピーターの獲得を⽬的とした囲い込みに⾛る前に、まずは初回の購⼊の満⾜度をいかに⾼めるかが鍵なのではないかという仮説に到達した。
中小ECサイトで購入しない理由
中⼩のECサイトで商品を購入しない理由は、会員登録が⾯倒、セキュリティが不安、メルマガが嫌、決済⽅法など、ブランドネームや商品数など、規模に関わる項⽬以外の理由もみられる。会員登録への抵抗感については、96%の回答者が「何らかの抵抗がある」と回答。会員登録やメルマガへの登録を必須とした購⼊フローが初回購⼊の妨げになっていることが判明した。会員登録について⽇⽶のECサイト売上上位で⽐較すると、会員登録必須は⽇本のみとなっている。
メルマガについてEC企業側は有⽤、消費者側は⾯倒、不要と考えている。セキュリティに関する意識はEC企業側より消費者のほうが⾼くなっており、中⼩のECサイトに消費者が抱く不安は、個⼈情報流出や、カードの不正利⽤、その他商品が届くかどうか、配送など。これらの課題をクリアすることが、消費者に信頼できるサイトと感じてもらう近道となりそうだ。
また、中⼩のECサイトでのカゴ落ち経験は約62%。主な理由は会員登録回避、次に決済における不安となっている。従来型の囲い込み戦略を前提とした購⼊フローでは複雑になり、セキュリティや配送への不安と相俟ってカゴ落ちを招くため、中⼩のEC企業には向かないのではないかと指摘している。
JECCICAが考えるカゴ落ちの原因5点
- 安⼼や信頼を感じるデザインや⽂⾔(コピー)が不⾜している
- カゴSTEPの簡略化をしていない(デフォルトのまま使⽤している)
- セキュリティを意識していない/表⽰していない
- 送料や決済⼿数料など、発⽣するコストが明記されていない
- 会員登録を強制している
消費者に選択の⾃由を与え、不安を取り除くことが肝要。具体的には、ゲスト購⼊を可能にした上で消費者が求める決済⼿段を提供し、⼀回⽬の購⼊を促すこと、かつ安全性や送料等の発⽣するコストについて明確にすることが重要。
JECCICAが考えるモバイル化への対応の遅れ5点
- モバイルコマース対応しておらず、PCのカート画⾯が表⽰される
- ⽂字が⼩さ過ぎて読めない。情報量が多過ぎる・少な過ぎる
- 購⼊までのステップが複雑(ステップ位置が分かりにくい・決済遷移が複雑)
- ⼊⼒フォームでのエラーが分かりにくい
- 選択ボタンや画像・バナーがモバイル最適化されていない
ID決済の導⼊によるフローの簡略化とセキュリティ強化が肝要。複数存在するID決済サービスは、ユーザビリティが⾼いサービス数社に淘汰されていくのではないかと分析している。ID決済やデジタルウォレット決済は、利便性と安全性を兼ね備えていることに加え、会員登録しなくても購⼊できるという⼤きなメリットを消費者にもたらすことを、EC企業は理解することが必要だとしている。