矢野経済研究所は国内アパレル産業において、世界的に注目されているデジタルファッションに関連し、メタバースやNFTビジネスへの参入状況、課題などについて法人アンケート調査を実施した。ここでは、その分析結果の一部を公表する。
デジタルファッションとは
メタバース上でアバターに着用させる仮想衣類などをさし、実際に着用するフィジカルファッションの対義語である。
調査結果
メタバースやNFTビジネスにおける魅力的な要素(複数回答)について、「国境がなくグローバルなマーケットであること」(31.7%)、「デジタルファッション自体の市場成長の将来に期待がもてる」(30.2%)など積極的な回答が多い一方で、「3Dソフトで企画・デザインした製品をフィジカル、デジタル双方のファッションに活かせる」(17.5%)という3D CAD(3Dモデリングソフトなど)の導入のメリットに関する回答もあるが、「一時的なブームであり魅力は感じない」(20.6%)という消極的な回答も一定数ある。
国内の主要なアパレル関連企業のメタバースやNFTビジネスへの参入状況(単数回答)について、「参入済みである」はわずかに3.2%、「参入を検討している」は15.9%で2割弱、「検討をしていない」(61.9%)が6割以上の多数を占めた。
同調査結果から、メタバースやNFTビジネスなどデジタルファッションに対する魅力を感じてはいるが、参入している企業はわずかであり、参入を検討していない企業が6割強を占めるのが現状といえる。
注目トピック
世界中で話題のメタバース上でアバターに着用させるデジタルファッション登場の背景
アパレル産業のデジタルトランスフォーメーション(DX)の進展は他産業に比べ遅れているといわれる。これは同産業が複雑な分業体制になっていることと関係しており、企画・デザイン(起点)から販売(終点)までデータで一元管理することが困難になっているためである。
アパレル産業は需要予測に基づく大量生産、大量消費のビジネスモデルを踏襲してきたことで、大量の売れ残りを生じさせ、大量に廃棄・焼却を余儀なくされ、昨今のサステナビリティ(環境負荷軽減を主目的とする取組み)とは正反対である現状が指摘されている。
世界的なサステナビリティの潮流にあるなか、アパレル産業におけるDXの取り組みは生産リードタイムの短縮により需要予測の精度を上げることで、不良在庫軽減が期待されている。つまりDXとサステナビリティの取組みは直結している。
アパレル産業ではこれまで、完成した後の製品管理(在庫管理)や販売面のデジタル化(販売管理、販促、マーケティング)は進んでいたが、アパレル製品の企画・デザイン段階でのデジタル化が遅れていた。しかし最近では3D CAD(3Dモデリングソフトなど)を導入するアパレル関連企業が増え、サンプル作製の削減、リードタイムの短縮と従来のフィジカル製品(実在する衣類など)の業務改善が進んできた。この企画・デザインにおける3Dデータ化は従来のフィジカル製品の業務改善だけでなく、デジタルファッションへの転用が可能。これにより、市場環境の厳しいアパレル関連企業やデザイナーにとっては“二毛作”(3Dモデリングソフトを導入することで従来のフィジカル製品のみならず、デジタルファッションとしても販売できようになるという意味)が実現でき、新たな収益源となる可能性として期待されている。
デジタルファッションはメタバース上のデジタルデータであることから、グローバルな顧客に接することができる点が特徴で、従来のフィジカル製品での海外展開よりもはるかに低コストで海外の顧客に接することができる。メタバースの世界的な盛り上がりとともに、デジタルファッションに対する期待と注目がアパレル産業界内外で集まっている。
調査概要
- 調査期間: 2022年6月
- 調査対象:国内主要アパレルメーカー、小売業、卸・商社63社
- 調査方法:郵送アンケート調査