スタージュエリーがデジタルで叶えるシームレスな顧客体験
6月3日に行われたセッションでは、セールスフォース・ドットコムの向山泰貴氏が、スタージュエリーブティックスの浦部氏と永井氏を招き、EC売上高成長率150%を実現した同社が提供する、顧客体験の秘訣について鼎談が行われた。
スタージュエリーは、全国に約50店舗を構え、オンラインストア、ジュエリー工房、直営カフェを展開する国内大手のジュエリーブランドである。創業の地、元町に今も本社を構え、75年にわたりハイクオリティかつ個性あふれるユニークなジュエリーを発信し続けている。また、デジタル販売が難しいとされるジュエリー業界で初めてECに着手するなど先進的な取り組みを行っている。
向山(セールスフォース・ドットコム) Commerce Cloudを導入されたきっかけを教えてください。
浦部(スタージュエリー) Commerce Cloud導入以前は別のパッケージを長期間利用していたのですが、カスタマイズにも限界が来ており、売上は踊り場状態が続いていました。そのような状況下で、サーバーダウンが発生したことが大きなきっかけになりました。
向山 なぜサーバーダウンが起きたのですか?
浦部 2016年にスタージュエリーが創業70周年を迎え、クリスマスシーズンにテレビCMの放映と、ドラマとのタイアップを行いました。そこで想定外のアクセス集中が起き、サーバーダウンが発生しました。70周年の集大成としてのイベントでしたから大きな機会損失となり、期待していただけにショックが大きかったです。このサーバーダウンをきっかけにプラットフォームの切り替えを検討しました。急なトラフィックの増加に対応できる安定性に魅力を感じ、Commerce Cloudの導入を決めました。
向山 急なトラフィックの増加によるサーバーダウンが理由で、Commerce Cloudを導入していただくケースは非常に多いです。その後、問題はありませんか?
浦部 はい。2020年のクリスマスに、医療従事者の方々にオリジナルジュエリーを贈呈したCSR活動がニュースに取り上げられ、アクセスが増加しましたが、Commerce Cloudは問題なく稼働してくれ、たいへん満足しております。
向山 ありがとうございます。プラットフォームの切り替えにあたり、そのほかに考慮されていたことはありますか?
浦部 ECサイトが当たり前になった今、他サイトと差別化し、スタージュエリーらしいホスピタリティあふれる、店舗のようなECサイトにする事を心がけました。
ホスピタリティあふれる店舗のようなECサイトとは
向山 浦部さんが現場で販売をされていた時のホスピタリティが、そのままECに活かされているということですか?
浦部 はい、そうです。Commerce Cloudの標準機能であるEinsteinというAIを活用し、お客様1人ひとりに合わせてレコメンデーションを行っています。
たとえば、サイトでお客様がひとつのリングをご覧になった際、お薦め商品として「同じストーンで同価格帯のリング」や「同じモチーフを使用したイヤーカフ」などが表示されます。ピアスの場合は「同じシリーズでサイズ違いのピアス」や「同じシーズンに発売された新作のピアス」が表示されるなど、お客様の好みに合わせた商品紹介やコーディネート提案が可能です。
向山 数字として表れたものがあれば教えてください。
浦部 セット購入が増え、客単価が上がっています。2019年11月に運用を開始したEinsteinの貢献率は、2021年1月に12.5%、2月は13.2%という結果が出ています。
向山 永井さんにおうかがいします。デジタル販売が難しいとされる商材で、業界に先駆けてECに取り組まれたのには、どのような舞台裏があったのですか?
永井(スタージュエリー) オンラインストアのオープンは2000年でした。ジュエリー業界の第一人者として行動しよう、とブランドとしての強い意志でECへの取り組みが始まりました。高単価な商材のため、ECでの販売は難しいのですが、近隣に店舗がないお客様にも平等に商品を見ていただける点に魅力を感じ、オープンに至りました。
向山 Commerce Cloudへのサイトリニューアルの際、実現したいことはありましたか?
永井 今まで別々だった、ブランドサイトとECサイトがドッキングしたサイトを作りたいと思っていました。ブランドページとして、注力商品を綺麗なビジュアルでダイナミックに見せ、訪れた方が買いたくなるようなサイトを目指しています。
向山 ブランドサイトとECサイトの融合で、実際に効果があった例を教えてください。
永井 2019年に行ったプロモーションの際、ピックアップした商品を実際に着用するイメージができるよう、デジタルシミュレーションページを作りました。このようなプロモーション専用ページでも、すぐにお気に入り登録やカートに入れることが可能となり、コンバージョンをスムーズに誘導できました。
また同じ年の冬には、耳用アクセサリーのシミュレーションページを作成しました。これにより、今まで別々に表示しなければならなかった、ピアスとイヤリング、イヤーカフを一緒に提案することができました。
向山 お客様の反応はいかがでしたか?
永井 店頭とオンライン共に、多くのお客様に楽しんでいただくことができました。店頭では商品の在庫が不足してしまった際、先のデジタルシミュレーションページを活用することで、接客を行うことができました。
デジタルでブランドを体験してもらえる時代がきた
向山 コロナ禍でさまざまな変化があったと思います。顧客接点の観点で変化があったことを教えてください。
永井 2020年5月に全国の店舗がクローズし、オンラインストアのみが営業しておりました。そのような状況下で、発売される夏の新作商品の魅力をどのようにお客様に伝えられるかを考え、Instagramでライブ配信が行える「Insta Live」を使って情報発信をしました。
当時ジュエリーブランドではInsta Liveを活用した販売は行われていませんでしたが、EC売上促進とお客様との接点を増やす目的で、新作発売に合わせて導入しました。お客様からの質問に直接答えることができるため、実際に店舗に行ったかのような体験ができるとご好評をいただきました。
向山 ライブ配信をする中で、とくに工夫された点を教えてください。
永井 今までECでの販売が難しかったジュエリーをどうコンバージョンにつなげるかを考え、サイトで取り扱いのある商品だけを紹介しました。また、ライブ終了後すぐに商品ページに飛べるようにしています。Insta Liveを使った取り組みは、店舗がオープンしてからも継続しています。
向山 店舗とECがつながり、お客様に体験を提供していく、という取り組みですね。とても参考になりました。ありがとうございました。最後に、今後のビジョンを聞かせてください。
永井 デジタルを利用してブランドを体験していただけるようになってきたと感じています。今後は、ホスピタリティあふれるブランドサイトを追求し、デジタル上でもコアなファンを増やしていきたいと思っています。
浦部 ECサイトとして、カタログサイトからの脱却とデジタルならではのサービスを追求し、海外のファンの皆様にも喜んでいただけるようなグローバルなサイト作りに取り組んでいきたいと考えています。
コマースの未来~顧客の心を動かす未来のコマース体験とは~
6月2日には、セールスフォース・ドットコム ジェネラルマネージャー 笹俊文氏が登壇。新しい顧客体験の概念を語るとともに、Salesforce Commerce Platformを通じて利用できる新しい顧客体験を提供する3つのツールを紹介した。
今後のデジタルコマースの方向性
直近のEC情勢を見るときには「ギャップを考慮に入れる」ことが必要だと笹氏は言う。ギャップとは、一時的なEC売上の落ち込みのことである。同社で行ったアンケートによると、昨年2020年の小売売上のうち、40%がEC由来となっている。
笹氏は、2020年のEC需要の高まりをコロナによる外出自粛などの影響が強いとし、2021年はワクチン普及などにより一度失速すると予想している。しかしそれは束の間の落ち込みであり、一度新しい購買体験をした消費者はそれを手放すことができないため、2023年に向かっては再び40%がECを経由しての購買になると話す。そして、その時にはカスタマージャーニーが変化し、消費者は体験型の購買を重要視するようになるため、企業はそれをどう提供できるかが今後のカギになると言う。
企業を対象とした同社のアンケートによると、84%の顧客が「企業が提供するエクスペリエンスは商品やサービスと同じくらい重要だ」と考えており、顧客体験が重視されていることが良くわかる。また、73%の顧客が「並外れたエクスペリエンスを提供する企業があると、他社への期待のハードルも上がる」と回答している。企業にとって、商品だけではなく、体験が勝負を左右する重要なファクターになっていると言える。
そして、その重要な体験型の購買を提供するためには、次の3つのポイントを備えたプラットフォームの活用が重要だと言う。
- 自由に開発ができる柔軟性
- 大規模運用に耐える信頼性
- ほかのプラットフォームと統合できる連携性
Salesforce Commerce Platformは、これからの顧客体験を実現するための3つの要素を備えたプラットフォームだ。
さらに笹氏は、Salesforce Commerce Platformを通じて利用できるツールがもたらす、新しい顧客体験の例を紹介した。
新しい顧客体験に必要な3つの“I”
新しい体験型コマースを紹介するにあたり、3つの“I”と称する重要な要素があるとする。
①Innovation(イノベーション)
最新技術を活用して新しい顧客体験を提供し購入意欲を刺激する。
②Interactive(インタラクティブ)
オンラインで顧客とリアルタイムにコミュニケーションし、店舗と同じような体験を提供する。
③Integration(インテグレーション)
ほかのコマースサイトとシームレスに統合し、自社サイト経由でさまざまな顧客のニーズに対応する。
笹氏はこの3つの“I”に、それぞれ対応するツールを紹介した。
AR技術を活用し、実世界での商品の見えかたがわかる
イノベーションに対応するツールとして紹介したのは「threekit(スリーキット)」だ。選択した商品をECサイト上で、3Dでカスタマイズでき、さらにその商品が実世界でどのように見えるのかがわかるというもの。実際にパソコンやスマートフォンのカメラで自分の部屋を映すと、カスタマイズした商品を置いているかのように見ることができる。
絵画の販売を行っているアメリカのECサイト「Yellow Korner(イエローコーナー)」ではこのツールがすでに実装され、コンバージョン率が30%上昇したとのこと。
オンラインで店舗と同じような体験を提供する
インタラクティブに対応するツールとして紹介したのは、スウェーデンのツールベンダーが提供する「bambuser(バンビューザー)」。新しいオンライン接客を可能にするツールである。通常のオンライン接客では動画で商品を紹介し、ECサイトを案内する、という二段階の流れが想起される。しかしこのツールを使えば、商品紹介から購入までをシームレスにつなげることができる。
動画での会話の中で販売員が商品を紹介すると、顧客側の画面に商品の詳細が表示され、気に入ればそのまま購入をすることができる。リアルタイムの商品紹介とECサイトがひとつに統合され、その様子はまるで店舗での接客が実際に行われているようである。 また、「bambuser」では1対1の接客だけではなく、多くの顧客に一斉に商品紹介をすることも可能だ。その際も顧客は気に入った商品を、そのまま購入することができる。
自社ECサイトに他ブランドの商品を掲載
インテグレーションに対応するツールは、オーストラリアの「Market placer(マーケットプレイサー)」だ。ECサイトとセラーのデータを連係するためのツールで、ほかのサイト運営者が販売している商品を素早く自社サイトに取り込むことができる。オーストラリアの百貨店など、すでにさまざまな企業で実装されている。
笹氏は一例として、他社でShopifyやBigCommerceなどを使用しているECサイトの商品情報を、「Market placer」を経由してセールスフォース・ドットコムのCommerce Cloudに取り込む、という様子を紹介した。
実際にその商品が売れた場合にも「Market placer」を経由してスムーズに、オーダー情報や出荷情報のやり取りを行うことができる。
本講演で笹氏が紹介した新しい顧客体験を実現できるツールは、すべてCommerce Cloudを通じて導入が可能。笹氏は最後に、Salesforce Commerce Platformは、さまざまなパートナー企業と連携し、ひとつのエコシステムとして新しいユーザー体験をしていくと述べ、セッションを締めくくった。
「コマースの未来 ~顧客の心を動かす未来のコマース体験とは~」
オンデマンドウェビナーのご視聴はこちら