NASDAQにも上場!「Luckin coffee」は何が違うのか
昔ながらの喫茶店は、
- 入店する
- 席につく
- 店員がおしぼりと水を持ってきつつ、オーダーを取る(場合によっては客がオーダーを決定するのを待って、再度オーダーを取りに席まで行く)
- 店員ができあがったコーヒーを席に持ってくる
- レジで店員に代金を支払う
というものでした。
スターバックスやドトールといった現代の一般的なコーヒーショップは、
- 入店する
- レジで注文し、店員に代金を支払う
- コーヒーを持って、席につく。または持って帰る
ということで、昔の喫茶店に比べて、店員の作業が大きく減っています。
つまり、同じ客数に対応する店員の数が少なくて済むわけです。よってその分、価格を安く提供できるようになりました。
ハンドドリップなどひと手間かかる工程に(他に豆生産地への配慮やトレーサビリティなどにも)こだわるブルーボトルコーヒーなどのサードウェーブコーヒーも、オペレーションはこの流れです。
今回取り上げる「Luckin coffee」は、2017年に中国で創業されたコーヒーチェーン店で、積極投資の繰り返しにより現在3,000店舗を超え、年内にスターバックスの約3,500店舗を超える見込みです。
積極出店しているLuckin coffeeですが、実は赤字です。直近の第2四半期(2019年4~6月)も約148億円の売上に対して、約103億円の赤字を出しています(参照)。こんなに赤字を出しているLuckin coffeeですが、2019年5月に米NASDAQに上場しました。
なぜ、こんな状態でNASDAQ上場できたかという秘密はコスト構造にあります。
Luckin coffeeのオペレーションは
- スマホアプリで注文し、WeChatPayかAlipayで代金を支払う
- 入店する
- アプリのQRコードを店舗の読み取り端末にかざして、自分のコーヒーを持ち帰る
というものです。
顧客のステップ数としては、通常のコーヒーショップと大差ありませんが、待ち時間なく受け取れるという利便性があります。
Luckin coffeeの大きな特徴は、店舗で注文も支払いも発生しないということにあります。したがって、店舗にはメニュー表、レジが不要です。レジがないということは釣銭準備、精算などの金銭管理作業が一切いらないということです。店員はシステムにオーダーが入ったコーヒーを淹れて、受取番号のコーヒーを渡すだけです。
また、中国では店内でコーヒーを飲む客よりもテイクアウトが多いという特徴があります。Luckin coffeeには優享店、快取店、外売厨房店の3種類があり、優享店はテーブルや席のある普通のカフェです。外売厨房店は出前専門店であり、快取店はちょっとしたカウンターに数席椅子があることもあるのですが、原則テイクアウトのスタンド店です。Luckin coffeeの9割の店舗はこの快取店であり、筆者が行った店も小型テーブルひとつに椅子がふたつだけの快取店でした。
テイクアウト専門の店とすることで、店舗面積を抑えて、家賃はもちろん出店・改装費も抑えることができるわけです。当然、従業員教育を含めた店舗運営コストも抑えることができます。
Luckin coffeeは自社でデリバリーサービスも提供しています。30分以内に配達する「エクスプレス・デリバリー」も同社の売りのひとつになっています。配送コストが低い中国におけるフードデリバリーの隆盛に乗っかっているわけです。この点において、配送コストが5~10倍かかる日本で真似をしようと思うと失敗します。
中国では、WeChatのアプリ内アプリであるミニプログラムを採用する小売業・飲食業が多いのですが、Luckin coffeeは自社アプリにこだわっています。
これは自社アプリを通して集めた顧客データ活用を重視している証拠であり、友人に紹介すると無料、5杯買うと次の5杯が無料などのキャンペーンを積極的に行っています。おそらく、日本でのPayPayキャンペーンのように顧客獲得に大きな販促費をかけていることが赤字の大きな要因と考えられます。Luckin coffeeでコーヒーを買う習慣が顧客にできたところで、キャンペーンを個別に抑えていけば回収できるという読みがあるのでしょう。
スターバックスが提供しているのはコーヒーだけではなく、サード・プレイスというくつろげる空間やカフェ体験ですが、Luckin coffeeはそれらを切り捨てることでコスト削減し、コーヒー自体の低価格化と販促費用の増加を狙っています。