1.やずや式「顧客ポートフォリオ」とは
前回、前々回と、「ステップメールは、『お客様のステージを引き上げる』のが得意である」という話をしてきた。
「引き上げる」ためには、まず「どのお客様が、どういうステージにいるか」を把握する必要がある。
それでは、「お客様のステージ」はどのように設定すればよいのだろうか? 分類手法として有名なのは、RFM分析である。
Recency:最新購買日
最近購入した顧客のほうが、何年も前に購入した顧客よりも、よい顧客であるという考えかた。
Frequency:購買頻度
累計の購買回数が多ければ多いほど、よい顧客であるという考えかた。
Monetary:購買金額
累計の購入金額が大きければ大きいほど、よい顧客であるという考えかた。
つまり、 「いままでに高額の商品を何回も購入してくれていて、直近も買い物をしてくれた方が、最もありがたい顧客であり、最も優遇すべき顧客である」 というのが、RFM分析の考えかたである。
そして、この分類方法に対して、「本当にそれでいいのだろうか?」という疑問を持ったのが、十六雑穀・にんにく卵黄・香醋などでおなじみの健康食品の通販会社「やずや」である。
RFM分析は、「販促効果が上がりやすい顧客層へアプローチができるため、短期的に売上げをつくるのに向いている」というメリットがある反面、「安い価格や特典の多い対抗商品がでてくると離脱をされやすい」というデメリットもあるのではないかと「やずや」は考えたのである。
これは、一般の商材と「やずや」のような単品リピート商材のKPI(Key Performance Indicators 重要業績評価指標)との違いとも言えるかもしれない。
一般商材が、「目先の売上を追いかけることの積み重ねで、売上を作っていく」のに対し、単品リピート商材の場合は、「1人のお客様とどれだけ長期にわたってお付き合いができるか」を重視している。KPIが、短期の売上ではなく、LTV(Life Time Value顧客生涯価値)なのである。
「RFM分析は、LTVを最大化させることには向いてない」ということに気づいた「やずや」は、独自の顧客分類方法を考案した。それが、「やずやの窮地を救った」と言われている「顧客ポートフォリオ理論」である。
「顧客ポートフォリオ理論」では、お客様を下記のように分類し、それぞれのステージに合わせたコミュニケーションをとることで、「次のステージに引き上げる」ということを実現している。
どのステージをどのように定義するかは、商材によって異なるが、たとえば弊社がお手伝いしている某単品リピート通販企業は、下記のように定義している(一部)。
新規顧客:購入回数1回、かつ直近90日未満での購入あり
※90日を過ぎると、新規離脱へ
未開発顧客:購入回数2回、かつ初回購入からの期間が240日未満
※240日を過ぎると、未開発離脱へ
「顧客ポートフォリオ理論」の最も秀逸なところは、「離脱」というステージを設け、「離脱」ステージのお客様に対するコミュニケーションを重視した点だろう。「一度ご縁ができたお客様とは、なんとしてもご縁をつないでいく」という「やずや」の考え方が、同社を急成長させた要因だと言われている。
また、「目先の売上ではなくLTVをKPIにすべきである」という「顧客ポートフォリオ理論」は、新規顧客獲得が難しくなり、企業が繰り出すあの手この手の販促手段に消費者が踊らされなくなってきたいま、単品リピート商材を扱う会社だけではなく、さまざまな企業で研究・採用されるようになってきている。
私も、「やずや」の大番頭であった西野博道さんの講演でこの考え方を知り、「なんと素晴らしい理論だろうか!」と感銘を受け、あちこちのセミナーで「顧客ポートフォリオ理論」を取り入れるようにと勧めてきた。
しかし……、どの会社もやらない、いや、できないのである。
なぜ、できないのか? その理由はいくつかある。
参考書籍:『社長が知らない 秘密の仕組み 業種・商品関係なし! 絶対に結果が出る「黄金の法則」』(橋本陽輔 /ビジネス社)