Temu(テム)という企業とは?
スマホを使っているとよく広告が表示されるTemu(テム、またはティームー)。まずは、広告を使って認知を上げようとしているこの企業が一体どのような企業なのかを見ていこう。
破格の安さで勝負する通販専門企業
Temuは、破格の安さで勝負している海外の通販専門企業(越境EC)だ。社名の由来は、「TEAM UP、PRICE DOWN(チームアップ、プライスダウン)」で、「チームを組んで値下げしよう」という意味。消費者とブランドやメーカー、パートナー企業とをチームとして考え、結びつけることを表している。
その特徴は、驚きの安さに加えて数百万種類という幅広い品揃え、世界規模の物流管理ノウハウ、ユーザーとメーカーなどの出店者とを効率的にマッチングさせるというビジネスモデルなどだ。
「億万長者気分でお買い物」というキャッチコピーも良く知られているところだろう。販売はWebサイトとアプリで実施している。日本では、2023年7月からサービスが開始されている。
どこの国の企業か
Temu社は、2022年9月にアメリカのマサチューセッツ州ボストンで設立された企業だ。創設者は中国人のColin Huang氏で、中国の大手EC「拼多多(ピンドゥオドゥオ)」の創設者として知られている。Temu社は拼多多ホールディングスの子会社で、中国から世界展開するために創設されたサービスだ。
拼多多ホールディングスは、中国3大ECの一角をなす企業で、アリババと京東(ジンドン)と拼多多の合計で中国市場の8割以上のシェアを占めるとされている。そんな拼多多には品質問題が絶えないという一面があり、品質面を改善しようとしているのがTemu社だといわれている。
Temu社は、創設者と運営会社という見方をすると中国企業といえるが、設立はアメリカだ。また、国際的な認知の向上と北米での販売強化を狙って、2023年5月に本社を上海からアイルランドのダブリンに移したことが報じられている。つまり、中国発のグローバル企業だといえるだろう。
Temuの売上規模や利用者数
世界60ヵ国以上にサービスを展開しているTemu社。拼多多ホールディングスはTemu社単体の年間売上などの実績を発表していないものの、2024年第2四半期のグループ全体の売上は133.6億米ドル (日本円で約1兆9238.4億円 1ドル144円として計算した場合)、前年度同期に対して186%だったと報告している。
ショッピングカテゴリの中でのTemuアプリのダウンロード数は、全世界で3.4億回とされ、2023年度の1位に輝いている。北米エリアでもThreadsに次ぐ2位で、1.1億回超という実績を残した。全世界のアクティブユーザー数は、2024年第1四半期に約1.7億人を突破したという。
一方日本国内では、Google Play ストアでアプリのダウンロード回数は1億回以上とされ、Apple Storeでもショッピングカテゴリ内で上位と好調を維持している。2024年1月には、国内ユーザー数が1,500万人を突破したと報じられている。
Temuが怪しいといわれる理由とは
売上やダウンロード数、ユーザー数などの面では目覚ましい業績を上げているTemuだが、その一方で「怪しい」という評価も存在している。ここでは、なぜそのような評判が立っているかについて見ていこう。
販売戦略
前章でも触れたが、Temuは急成長を遂げている。短期間で成長するという戦略の下、明らかに見て取れた施策には以下のものがある。
- 他の追随を許さない低価格の実現
- 頻繁に現れるクーポンや割引セール
- 無料ギフトや破格の特別キャンペーン
Temuは圧倒的な低価格を実現している。70%オフを見かけるのは決して珍しくなく、最大90%オフという商品も少なからず登場する。メイクやコスメの小物、メッシュのバッグなど、ものによってはセールで100円以下という安さだ。
創業から数年というTemuがここまで認識されるようになったのは、クーポンやセールの存在も大きいだろう。新規会員登録や初回限定、割引率が決まるルーレットといった形で、アプリやサイトを利用するとかなりの高確率でクーポンが提示される。セールについては、ほぼ常時、何らかの形で開催されているといっていいだろう。
無料のギフトも施策のひとつだ。たとえばバッグや家電製品などがもらえるというもの、100円以下で人気ゲーム機器が買えるという特別キャンペーンもあった。ただし、Temuアプリの新規ダウンロードユーザーが対象だ。あまりの安さや気前の良さに「本当だろうか」という疑いを覚えたユーザーも少なくなかっただろう。
商品の品質
Temuには、品質に対する疑念がある。「画像と送られてきた実物が違う」という苦情から、健康に影響を及ぼす恐れのある有害物質の検出まで、事例が多いのは事実だ。
SNSでの画像投稿や「買ってみた・使ってみた」といった動画などで、Temuの商品は数多くレビューされている。見てもらうコンテンツだという性質上、どうしてもネガティブな内容が多くなるものの、ざっと見回してもマイナス評価が大勢を占めているといえる。
メディアでも、基準値を上回る有害物質が検出されたというニュースが度々報道されている。たとえば、2024年8月には、ソウル市の調査によって、Temuのサンダルの中敷きから韓国の基準値の11倍を超える鉛が検出され、政府が販売中止を求めていると発表された。
ほかにも、Temu同様に安さを売りにする「SHEIN」や「アリエクスプレス」を含む3社の商品から、発がん性のある有害物質が数多く検出されていることも報道されている。特に、子ども用自転車のサドルから有害物質が検出されたという事例に不安を覚えた保護者も少なくないだろう。
個人情報の取り扱い
個人情報の取り扱いという点でも、Temuには懸念がある。ネット上には、「Temuで買い物をした数日後にクレジットカードを不正利用された」といった書き込みが見られるからだ。訴訟に発展しているケースもあり、そういったことが個人情報の利用に対する不安の呼び水となっているのだろう。
アプリのセキュリティについては、懸念があった。2023年4月には、不必要な個人情報を取得しているのではないかという指摘をアメリカの専門家から受けた。2024年5月には、米国安全保障委員会からマルウェアが含まれているという指摘を受け、Google playストアから一時的に削除されたこともある。
2024年3月には、個人情報を無期限に利用する見返りとしてクーポンを提供するというキャンペーンを展開していたこともあったとされている。ヨーロッパで実施されたキャンペーンで、新規アプリダウンロードに加えて友達を紹介すると、最大100ユーロがもらえるというものだ。ただし、応募条件が個人情報の無期限利用だったことから問題視され、キャンペーンは中止された。個人情報に対する認識の甘さが露呈した格好だ。
Temuの魅力や特徴とは?
商品の品質やアプリのセキュリティに大きな課題を抱えながらも、Temuが世界で受け入れられているのは、魅力があるからだ。ここでは、Temuの魅力や特徴について見ていこう。
業界トップクラスの安さ
まず取り上げておきたいのは、やはり業界トップクラスともいえるその安さだ。中国国内の価格感を世界に届けるために、Temu社は次のような工夫を凝らしている。
- 入札システム
- メーカーからの直接仕入れ
- 無店舗運営
- 価格調整
- 世界規模の流通ルート
- 莫大な広告費
商品価格を押さえるための肝ともいえるのが、入札システムだ。複数社による納入希望価格の入札を経て仕入れ先のメーカーが決まる。これを毎週繰り返し、価格の維持に努めているという。そして、メーカーからTemuの倉庫経由で世界各国のユーザーに発送されるというビジネスモデルになっている。
それはつまり、卸売りを介さないメーカーからの直接仕入れということを意味する。卸売業者に仲介させると発生する中間コストを削減するために、中間業者を排除している格好だ。
工場だけではなく販売のための実店舗も構えない。通販の会社では大都市にショールームを設置するという選択もあるが、Temuはそうしていない。拠点を持つと、地代家賃や水道光熱費、人件費といった固定費を毎月支払う必要があるからだ。
安さへのこだわりはそれだけではない。Temuでは、同じ商品が自分が購入したときよりも値下がりした場合、その差額を返金する価格調整に対応している。同一ショップで30日以内 など、一定の条件はあるものの、入札システムによる価格変動分をTemuが自社で負担している格好だ。
流通面でも、コストを惜しんでいないように見える。Temuで販売する商品は中国で作られ、中国から世界に発送される仕組みだ。越境ECならではともいえる飛行機での輸送に対応していて、中国国外から商品を購入しても配送にかかるのは長くても2週間ほど。そこまでの速さを実現するために、貨物専用の航空機でSHEIN社と合わせて1日に9,000トンも出荷しているという。
広告費については、いわずもがなと感じる人も多いのではないだろうか。テレビCMやSNSなどに多額の広告費用を投じていることは、何度も取り上げられてきた。Temuがまず北米で注目を集めたのは、2023年2月、アメリカンフットボールの大会「スーパーボウル」中に15億円をかけてスポットCMを流したからだともいわれている。そのほかにも2023年はマーケティングに4,400億円を投じたというニュースも記憶に新しいところだろう。
輸送費にしても広告費にしても、Temuや同業のSHEINが莫大な金額を投じることから費用相場が上がっているという声があがるほど、業界にはインパクトを与える存在となりつつある。コストを抑える部分とかける部分とに分けて商品の安さを実現し、それが国を問わず受け入れられているのが現状だといえるだろう。
豊富な品揃え
ここからは、Temuで商品を購入するユーザー目線の魅力を伝えていこう。安さに加えて、総合通販ならではの豊富な品ぞろえというのもTemuの魅力だ。ファッションやアクセサリー、メイク、子ども用品、日用品、美容健康、キッチン、インテリア、DIY、ガーデニング、ペット用品、家電製品、本など、実に幅広い。
たくさんありすぎて迷ってしまう場合に備えて、ベストセラーや5つ星評価の商品もまとめられている。価格や割引率はもちろんのこと、出品者の情報や販売数、ユーザーレビューなどが確認可能だ。
送料
最低購入金額はあるものの、通常配送の送料が無料というのもうれしい点だ。最低購入金額は、新規ユーザーは1,400円、2回目以降の場合は2,100円となっている。ただし、変更される場合もあるので、事前に確認しよう。
なお、通常配達で遅延が生じた場合には、600円のTemuクレジットが付与される。Temuクレジットとは、Temuのショッピングにのみ使えるポイントのことだ。
配送方法と配送日数
前述のとおり、配送方法は中国から国外への発送に航空便が使用されている。日本国内では主に大手運送会社からユーザーへと届けられる仕組みだ。配送日数は5~12日程度。アプリやWebから注文した商品は、中国国内のメーカーから2週間弱で手元に届く。公式サイトに掲載されている配送業者は次の通りだ。
- 佐川急便
- 日本郵便
- ヤマト運輸
追跡も可能で、アプリからでもWebからでも配達状況の確認ができる。一般的な配送と変わらず、配送業者と追跡番号、配達予定日、最新の配送状況などを見ることが可能だ。海外の倉庫から発送される場合や配送が次の会社へ引き継がれる場合などには、追跡情報の更新が遅れる場合があるとしている。なお、espoirer(エスポリア)という航空貨物や国際宅配便を事業とする会社が国内配送を担う場合もある。
返品
返品についても、Temuなら条件次第で送料無料だ。基本的には購入日から90日以内の返品は無料で、1点または複数の商品の初回返品は無料としている。そのような中でも一部に返品不可の商品もあるので、紹介しておこう。
- 着用済みの衣料品、洗濯済みのもの、損傷のあるもの、タグ、包装、衛生ステッカーが取り外されたもの、セットが不完全な商品
- 返品不可と明記されている商品
- カスタマイズされた商品
- 一部の無料ギフト
返品の条件を満たす商品については全額返金されるため、安心だといえる。返金方法には、元の決済方法またはTemuクレジットがあり、どちらを選ぶかで返金処理にかかる日数が変わってくる。元の決済方法の場合には、金融機関の処理の関係で通常5~14営業日。Temuクレジットの場合には3分以内だが、使えるのはTemuでのショッピングに限られる。
選べる支払い方法
通販で重要な項目の一つが、支払い方法の多さだ。Temuで利用できる支払方法には、以下のものがある。
- 主要なクレジットカードまたはデビットカード(Visa、Mastercard、American Express、JCB、 Diners Club、Discover、Maestro)
- Temuクレジット
- コンビニ払い
- Apple Pay
- Google Pay
- PayPal
- Paidy
クレジットカードやデビットカードをはじめとして、Payや現金(コンビニ払い)といった種類が用意されている。Paidyは、事前登録やクレジットカードが不要にもかかわらず翌月10日にまとめて支払いができるという後払いサービスのこと。クレジットカード派でもPay派でも、現金派でも、支払方法の選択に困ることはないだろう。
共通ポイントとの連携
Temuで買い物をすると、国内共通ポイントの一つであるPontaポイントが付与される。2024年7月11日から、新規提携先としてPonta公式サイトでTemuが紹介された。
付与されるポイントは、Temuの利用が初回か2回目以降かによって異なる。付与されるポイントは、初回の場合が購入金額(税抜)の13%分、2回目以降が購入金額の1%分だ。付与の条件は、指定のサイトを経由すること。付与のタイミングは購入から約3ヵ月と少し時間がかかるが、TemuユーザーにとってはPontaポイントも自動的にたまるならありがたい話だろう。
なお、共通ポイントとは、Vポイント(旧Tポイント)やdポイント、楽天ポイント、PayPayポイントといった、他店でも獲得や使用ができるポイントのこと。Pontaポイントは、これら4つに加えて国内5大共通ポイント の一角をなすサービスであり、じゃらんやホットペッパー、ホットペッパービューティーなどを利用した際に付与されるリクルートポイントやJALのマイルと交換も可能だ。
安全対策に取り組む姿勢
前章で触れたが、Temuには個人情報についての認識の甘さやサービスを提供する上でのセキュリティの問題がある。その点について、どのような対応を取っているか見ておこう。
2024年4月、TemuがAPWGに参加したと報じられている。APWG(Anti-Phishing Working Group)とは、2003年に設立された組織で、フィッシングやなりすましによる詐欺などのサイバー犯罪に立ち向かう国際的な組織のこと。APWGは定期的にサイバー犯罪についてのレポートを発表しており、2023年には世界で500万件以上ものフィッシング詐欺 を認めたと報告している。
それに加えて、Temuの公式サイトには以下のことが発表されている。
- セキュリティの国際標準を導入(MASA)
- マルチファクタ認証(MFA)
- 決済時のセキュリティ認証
MASA(Mobile Application Security Assessment)によって策定された国際標準を遵守することに加えて、脆弱性報奨金制度を活用して積極的に脆弱性に対処するとしている。
また、アカウントのセキュリティ強化のためにマルチファクタ認証を取り入れたと発表。マルチファクタ認証とは、サービスへのログイン時に2つ以上の異なる認証要素を組み合わせることを意味する。
決裁時にも、PCI DSSというクレジット産業向けの国際的なデータセキュリティ認証を取得している。PCI DSSとは、大手クレジットカード5社が共同設立 したもので、管理運用もされている。
Temuを安全に利用する方法
ここまでTemuが怪しいといわれる理由やその一方で取り組んでいる安さへのこだわりについて見てきた。ここでは、急成長を遂げる中でいろいろな噂の絶えないTemuを安全に利用するためには、どうしたらいいかについて触れておきたい。
個人情報に不安がある
Temuには個人情報漏洩の懸念があるため、その点を心配するユーザーがいるのは当然だろう。そこで、対策として提案しておきたいことが2つあるので紹介しよう。
- アカウント登録なしで購入する
- ウイルス対策済みのデバイスを使う
アカウント登録なしで購入するというのは、ゲスト購入するということだ。ゲスト購入の場合でも、商品の発送に必要な情報を入力することにはなるが、会員登録をしないで済む。会員登録をすると購入時の情報入力が簡単になる、アプリやメールでお得な情報のおしらせを受け取れるなどのメリットがあるが、あまり魅力を感じないのであれば、わざわざ会員登録する必要はない。
また、PCにはウイルス対策をしているものの、スマホにはしていないというユーザーも一部にいるようだ。特にiOSの場合は、OS自体に不要なプログラムを排除する機能が組み込まれているため、セキュリティ対策は不要と考える人もいるかもしれない。しかし、WebやSMS、Wi-Fiなども日常的に使うという場合は、ウイルス対策を含んだセキュリティ対策ソフトを導入しておくほうが安心だ。
支払方法を工夫する
支払方法も少しの工夫でより安全に決済できる。クレジットカードで支払うことに不安がある人の場合は、ひと手間を加えよう。たとえばPayPalは、事前にクレジットカードの情報を登録しておく必要があるが、決済時に個人情報を知らせる必要はない。前述したPaidyも登録不要で後払いができるサービスだ。
Pay系については、クレジットカードのようにカード番号を送信する必要がない非接触型の決済方法という点でセキュリティが高いといわれている。
現金派の場合は、コンビニで支払うと良い。現金を用意したりコンビニに行ったりする手間は発生するものの、個人情報を抜き取られる心配はない。
説明やレビューをよく確認する
Temuの商品の品質に懸念があるという人は、商品の説明書きをまずはよく確認しよう。商品だけではなく、出品者も出品者レビューで確認することをおすすめする。「もっと見る」ボタンが表示されている場合には、画像も含めてまだ説明があるということだ。
Temu掲載されているのは、すべてユーザーレビューだとされている。画像や説明書きと実際の商品との違いがなかったかといった実物に関する情報や実際の使用感などは、ユーザーレビューに書かれている可能性が高い。どの国のユーザーかが表示されるため、おそらくは感覚的なものが近いであろう自国のユーザーレビューを参考にするというのはひとつの方法だ。なお、どちらも、新しい順や最高評価、最低評価などで並べ替えができる。
Temuの評判や口コミ
最後に、Temuの評判や口コミを少し紹介しよう。まずは評価の低い内容は、次のようなものが並んでいる。
- 画像と実物が異なる
- 梱包がひどい
- クーポンやキャンペーンの通知が多すぎる
- 無料ギフトの条件が厳しい
- ゲームは広告が多くて操作の邪魔ばかり。クリアさせるつもりがない
その一方で評価の高いものもある。恐る恐る使ってみたら、意外にしっかりした対応だったというものが多かったのが印象的だ。
- 正直うさん臭いと思っていたが、商品の品質が思いのほか良かったので驚いた
- 国内で買うよりもかなり安く、少し待てば良いものが届く楽しみがある
- 価格調整で差額が返金されるのもうれしい
- 不良品があっても返品対応が早い
- 注文から発送、到着までのコミュニケーションが丁寧
Temuはその安さや急激な成長から、商品やセキュリティへの懸念が消費者の間に生まれているのは事実だ。しかし、中国の安さを海外ユーザーに届けるという点で世界中から評価されている。こうした点を踏まえ、リスクを考慮した上で、上手に買い物を楽しむのが良いだろう。