自社工房でカカオ豆から製造する「Bean to Bar」
2014年12月1日に、「Minimal - Bean to Bar Chocolate -」というチョコレートブランドをローンチしました。2024年12月で、10周年を迎えます。本連載では、業界経験がなく素人だった私が、ブランドを立ち上げてから10年を一つの周期と捉えて、「10年生き残り、続けていく」ためのエッセンスについて執筆することになりました。Minimalが体験した実例をもとに、「10年後に生き残るブランド」について考えていきます。
Minimalは、「Bean to Bar(ビーントゥバー)」というチョコレート製造のスタイルを採っています。カカオ豆から板チョコレートになるまで、自社工房で一気通貫して製造する新しいスタイルです。「Bean」はチョコレートの主原料であるカカオ豆、「Bar」は板チョコレートを表しています。
Bean to Barはチョコレートの世界トレンドとして、この10年ほどの間に日本でも注目されるようになりました。商品企画から製造、そしてお客様に直接販売する点では、D2Cともいえます。
Bean to Barは、製造と販売を両方含めた、D2Cによるブランド運営という新しいものでした。10年近くブランドを継続する中で感じた課題は多くありますが、連載初回は特に大きな3つを取り上げます。
課題1:ものづくりの質向上の追究と、相反する量への挑戦
私はブランドの構成要素を考えるときに、2階建ての建物と見立てています。
2階建ての1階部分は土台であり、ブランドを展開する際の外してはならないベーシックな要素です。2階部分が、展開する領域における差別化要素、つまり類似の競合ブランドとの違いを明確にする部分です。
私が約10年間ブランドを運営してきて感じたのが、意外に多くのブランドが2階の差別化要素を意識しすぎて1階の土台を疎かにしていることです。建物に見立てて考えると、1階の土台部分がしっかりしていなければ、2階がどれだけリッチになってもくずれてしまいます。
では、食ブランドの1階部分は何か。それは、“おいしさ”でしょう。世の中に絶対的な“おいしさ”の指標があるわけではないですが、食ブランドとして確実に外せない部分です。
Minimalの価値のベースにあるのは、提供する商品サービスです。ここで商品サービスと書いたのは、商品であるチョコレートと、それを食べる前後の体験サービスまで“おいしさ”に含めて考えているからです。
日本のチョコレート市場は、年間5,750億円(全日本菓子協会推定)といわれています。お菓子カテゴリーの中でも、特に大きな市場です。ただ、ご存じのとおり、その市場はレッドオーシャンといっても過言でないほど、多くの競合がしのぎを削っています。
約10年前にまったくの無名から始まったMinimalですが、優先順位の1番高い課題を“おいしさ”の追求、つまり“ものづくりの質向上”と明確に位置づけて経営してきました。ブランドを立ち上げるとき、もちろんコンセプトとマーケティングは非常に重要です。しかし、あえてその優先順位を2位としています。「10年続く」につながりますが、ブランドが成長し続けるためです。
マーケティングの観点から競合と差別化するのも非常に重要で、欠かせない要素です。ただし、すべての戦略は必ず模倣されます。だからこそ、根幹の技術(ものづくりの質)を追求し続ける組織にするべきだと考えています。