ECサイトを運営していると、顧客からの問い合わせなどへの対応や、最良の顧客体験を提供するための施策に、リソースが足りないケースは珍しくないでしょう。そこで有効な選択肢となるのがチャットコマースの導入です。
チャットコマースは効果的な運用を行えば、ECサイトの運営事業をさらに加速させられます。今回は、ECサイトにおけるチャットコマース導入のメリットや運用時の注意点などを紹介します。自社での活用を検討されている方は、ぜひお役立てください。
ECサイトにおけるチャットコマース(会話型コマース)とは?
「チャットコマース」そのものの定義は、LINEやFacebookメッセンジャーといったチャット(=会話)ができるシステムを利用し、顧客ごとにデジタル上で接客・営業を行うためのサービスです。英語圏では「Conversational Commerce」といわれ、ECと並ぶ「CC」として広く注目を集めています。
従来、オンライン上での情報発信は一方通行であり、顧客ごとに最適化されたアプローチは困難でした。それはECサイトにおいても同様で、どうしても提案不足による取りこぼしがあった点は否めません。
しかしチャットコマースを導入すれば、従来は難しかった1 to 1の接客が可能になり、さらなる売り上げ拡大が期待できます。
ECサイトでチャットコマース活用が増えている背景
ECサイトにおけるチャットコマースの活用機会は増加しており、その理由は以下のとおりです。
- 一般ユーザーにチャット文化が浸透した
- ECにおける接客レベルが向上している
- ECサイトへの流入経路が多様化している
次項より、それぞれについて概説します。
一般ユーザーにチャット文化が浸透した
昨今は、LINEやSNSのDM(ダイレクトメッセージ)など、一般ユーザーにとってチャットはもはや“当たり前”の存在となっています。たとえば、国内におけるLINEの月間アクティブユーザー数は、「LINE Business Guide 2022年7月-9月期」によると9,200万人以上と判明しました。
スマートフォンの普及によるチャット文化が一般化した背景を受けて、ユーザーにとっても使い慣れたチャットコマースが注目されているのです。
ECにおける接客レベルが向上している
そもそも元来の商品販売は、実店舗での対面接客によって行われるものでした。しかし、オンラインでの商品販売が盛んになると、画一化された顧客対応しか行えない点が新たな課題となっています。
そんななかで、オンラインでも実店舗と比較して遜色ない接客を行うため、AI技術を用いたチャットコマースが発展してきたのです。
ECサイトへの流入経路が多様化している
従来なら、ECサイト運営では、自然(オーガニック)検索経由で流入したユーザーが使ったキーワードや行動を分析することで、施策改善を図るのが主流でした。
しかし、現在はさまざまなチャネルからサイトに訪問するようになってきており、従来型の施策改善の手法は難しくなりつつあります。
そのため、サイト上で多くのデータを収集し、最適な体験価値を届けるチャットコマースの重要度が上昇しているのです。
ECサイトにチャットコマースを導入するメリット
ECサイト運営でチャットコマースを導入するメリットとして、恩恵が大きなものは次のとおりです。
- 顧客体験価値の上昇によるCVR(コンバージョン率)向上
- ユーザーに関するデータの集積
- 業務の効率化
以下より、具体的に解説します。
顧客体験価値の上昇によるCVR向上
ECサイトにチャットボットを導入すれば、ユーザーの体験価値を向上させた上で、離脱率を低減しつつCVR向上につなげられます。ユーザーが商品購入に至らずに離脱する要因はさまざまですが、チャットコマースではそういった要因をいくつか解消することができます。
チャットコマースでは、おもに以下のようなシーンでフォローが可能です。
- 決済のサポート
- 商品や在庫状況に関する問い合わせへの対応
- 配送日や送料に関する問い合わせへの対応
たとえば、商品をカートまで入れたにもかかわらず、購入を迷っているユーザーがいたとします。チャットコマースを利用して、そのユーザーをフォローする提案や質問対応ができれば、購入の後押しができるかもしれません。
ECサイト運営でチャットコマースを採用するなら、CVRをさらに高めるために「商品管理」「在庫管理」「出荷管理」のシステムとの連携も推奨されます。チャットコマースがこれらと連携していないと、ユーザーから商品や配送状況などに関する質問があった場合、ボットでは正確な回答ができなくなってしまうからです。
ユーザーに関するデータの集積
ECサイト運営において、ユーザーからのフィードバックの機会が少ないことが課題のひとつです。
顧客の感想を収集するうえでは、アンケートの協力を依頼する方法もありますが、積極的な回答は自社サービスに満足している層から得られることが多いため、フィードバックではなく“良いコメント”ばかりが集まるケースも珍しくありません。
そこで、チャットボットの入力欄に自由枠を設け、ユーザーが送信した内容を分析することで、必要としている商品や頻繁に寄せられる問い合わせ内容を可視化できます。
フィードバックを得やすいチャネルとしては、以下のようなページが想定されます。
- 商品詳細ページ
- カテゴリーページ
- FAQページ
ただし、自由入力欄の実装には入力キーワードから最適な回答を行えるようにAIを導入して精度の高い会話を実現する必要がある点は念頭に置きましょう。
業務の効率化
チャットコマースなら、業務効率化も果たせます。1日に100件単位で商品が動くECサイトでは、必然的にユーザーからの問い合わせも多く、有人での個別対応が難しくなります。特に、返品対応や商品交換などにかかる労力は相当なものでしょう。
一方で、顧客からの問い合わせには似た内容が多く、パターンごとに分類してシナリオを作ればチャットコマースでの対応も十分可能です。チャットボットなら24時間対応が可能なので、営業時間外の回答にも迅速に対応でき、運営担当の業務効率化を実現できます。
チャットでの対応が難しい内容は、担当者による対応が必要ですので、「チャットボット対応⇄有人対応」にスイッチできるようにしておきましょう。
さらに、業務効率化が目的の場合は、一般的にはチャットボットにインストールする「FAQデータ」の更新もこまめに行う必要があります。ャットボットの質問への正答率を上昇させることができ、FAQページで疑問が解消されなかったユーザーの満足度が低下するリスクを下げられます。
チャットコマース導入の際の注意点
チャットコマースのメリットは以上のとおりですが、効果を発揮する上では「完全に接客を無人化できるわけではない」「自社の導入目的に合ったツールを導入する」といった点に注意しなければなりません。
完全に接客を無人化できるわけではない
チャットコマースは非常に利便性の高いシステムですが、決して万能ではなく、クレームやトラブル対応に人間の判断が求められるケースは多々あります。単価の高い商材を扱っている場合も、有人による親身な対応や接客が求められるでしょう。
チャットコマースに向いている領域とそうでない部分を把握し、有人対応との併用を前提として体制構築しておきましょう。
自社の導入目的に合ったツールを導入する
チャットコマースを効果的に活用するには、あらかじめ自社の導入目的を明確化しておかなければなりません。
ツールありきでプランを練るのではなく「チャットコマースを導入することで何を実現したいのか」「導入目的を踏まえて、どのツールを採用するのか」という、課題・目的を起点とした計画を立てる必要があります。
ツール選定の際には、「導入によってA社はこのくらい売り上げを伸ばした」といった成功事例に目がいきがちですが、同じ市場であっても強みや課題は各社で異なります。そのため、「自社のECサイト運営における課題は何か」を可視化したうえで、それを解消し得るツールを導入する必要があるのです。
ECサイト運営の参考に!チャットコマースの導入事例
本項では、ECサイトへのチャットコマース導入で効果を上げた企業例を4社紹介しますので、自社で活用する際の参考にしてください。
MEDULLA
D2Cビジネスにおけるパーソナライゼーションに軸を置いて事業を展開する株式会社Spartyは、自社ブランドであるオーダーメイドシャンプー「MEDULLA」のECサイトでチャットコマースを活用しています。
導入サービスはAIチャットボット×コミュニケーションデザインを謳う「ジールス」で、導入により検討段階にある見込み顧客への訴求力を補強することが狙いです。
MEDULLAはパーソナライズヘアケアブランドであるため、商品購入時に顧客ごとに最適化されたコミュニケーションが必須です。最適化された1 to 1のやり取りを行うことで、商品購入までの導線をスムーズにできます。
さらに、同社が導入したジールスはチャットボットから質問を投げかけることができ、2021年8月から同年11月の期間では9割のユーザーが全質問に回答したとのことです。
ヤマト運輸
ヤマト運輸はチャットサービスを活用した業務効率化に成功している企業の代表例です。同社はLINEを活用したサービスを提供しており、ユーザーが荷物の配送状況の確認や受け取り場所・日時の指定をスムーズに行うことができます。
これは、配達ドライバーの業務負担が削減されるだけでなく、ユーザーの体験価値の上昇にもつながっています。
ECサイト運営では、ユーザーに商品を届けるまでをセットで意識して、体験価値を向上させる必要がありますので、ヤマト運輸の事例に学べる点も多くあるでしょう。
エリカ健康道場
酵素ドリンクの定期通販事業を展開するエリカ健康道場は、解約率の低減のためにリテンションボット「Smash」を2020年10月に導入しています。
継続率が重要な定期販売において、顧客とのコミュニケーションの改善を図って導入したSmashでは、データの取得・分析から、課題を明確化したうえでの施策改善までが可能です。
たとえば、「購入した商品を飲みきれない」という解約理由が以前から予想されていましたが、分析により半数を占めていると判明したとされています。可視化された顧客のニーズは、既存の販売シナリオに活かすことで、売り上げ拡大につなげられます。
H&M
ファストファッションブランドの「H&M」は、海外向けのECサイトで実店舗と同等程度の体験価値を提供するためにチャットコマースを採用しています。ユーザーは、自身の趣味趣向をチャットでのやり取りで答えることで、それにマッチしたコーディネートの提案を受けることができます。
この事例は、文化やライフスタイルの異なる海外市場でEC事業を展開する際に、チャットコマースが有用であることの証左といえるかもしれません。
まとめ
ECサイト運営にチャットコマースを導入すれば、業務効率化を果たしつつ、顧客に対しパーソナライズされた、より最適な体験価値を届けられます。チャットボットが収集するデータを蓄積・分析することで、施策をさらに加速させることが可能です。
ただし、チャットボットは闇雲に導入するのではなく、「なぜチャットコマースが必要なのか?」との課題ありきでの戦略設計が求められます。
自社の課題を解決するための手段のひとつとして、チャットコマースの導入を検討してみてはいかがでしょうか。