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おさえておきたいEC・通販先進企業

ネット通販と流通の強みを活かすアイリスオーヤマの事業拡大戦略


 良心的な価格での商品提供を強みとするアイリスオーヤマは、「アイリスプラザ」などのネット通販と独自の流通網を駆使することで、優れたサービスの提供に努めています。今回は、アイリスオーヤマの企業情報や事業拡大戦略などを解説します。

 アイリスオーヤマ株式会社は、消費者向けのサービスはもちろん、法人向けの事業にも力を入れており、いずれの領域においても成功を収めている一大メーカーです。驚きのコストパフォーマンスと優れた品質を両立させている要素としては、独自の流通網や「アイリスプラザ」などにおけるネット通販戦略が功を奏していることが背景にあります。

 この記事では、そんなアイリスオーヤマ株式会社の事業拡大戦略について、同社のビジネスモデルや強みを中心に解説します。

アイリスオーヤマ株式会社の企業情報・事業内容

 まずは、アイリスオーヤマ株式会社の企業情報について確認しておきましょう。

アイリスオーヤマ株式会社の企業情報

 以下の表では、アイリスオーヤマ株式会社の企業情報を簡単にまとめています。

社名 アイリスオーヤマ株式会社
本社所在地 宮城県仙台市青葉区五橋2-12-1
設立年月 1971年4月
代表者名 代表取締役社長 大山晃弘
株式公開 未上場
資本金 1億円
おもなグループ会社

株式会社オーヤマ

株式会社アイリスプラザ

アイリスチトセ株式会社 など

アイリスオーヤマ株式会社の事業内容

 アイリスオーヤマ株式会社は、おもに以下4つの事業を軸としています。

  • BtoC事業
  • BtoB事業
  • ネット通販事業
  • 海外事業

 BtoC事業は、消費者のライフスタイルの変化へ柔軟に対応し、常に「快適」なサービスを届けることをコンセプトにしている事業です。取り扱う商品点数は2万5,000点以上で、年間の新商品数は1,000点と、豊富なラインナップで多様な需要に対応しています。

 BtoB事業は、照明や家具、内装といったオフィス空間のトータルコーディネートを提供するサービスです。飲食店やスポーツ施設など、幅広い領域の法人に向けたコーディネートを提案するほか、IoT導入のような、ハイテク活用の提案にも対応している点が特徴です。

 ネット通販事業は、アイリスオーヤマの公式通販サイト「アイリスプラザ」の運営や、各ECモールサイトへの出店を担う部門です。商品の販売はもちろん、インターネットを通じた広報活動も担い、会社成長の柱として今後の活躍が期待されています。

 海外事業では、ネット通販を基軸としたグローバルな商品展開を担当しています。欧米やアジア各地に生産拠点と販売網を設け、グループ会社8社と18の工場をフル稼働し、現地向け商品の開発・生産を担います。

アイリスオーヤマ株式会社の沿革

 ここでは、アイリスオーヤマ株式会社の沿革を、簡単な表にまとめています。

年月 沿革
1958年4月 先代 大山森佑が大山ブロー工業所創業
1986年4月 株式会社オーヤマ設立
1991年3月

株式会社アイリスプラザ設立

(同年9月社名をアイリスオーヤマ株式会社に変更)

1998年8月 IRIS OHYAMA EUROPE B.V.設立
2003年3月 IRIS KOREA物流センター竣工
2008年4月 大連アイリス国際貿易有限公司設立
2010年3月 LED照明事業本格参入
2013年11月 アイリスフーズ株式会社設立
2019年

1月 蘇州工場 拡張

3月 仁川工場 竣工

6月 フランス工場 竣工

2021年1月 アイリスロボティクス設立

 プラスチック製品の下請け工場として創業を開始した大山ブロー工業所は、事業の多角化にともなって株式会社オーヤマに、そして1991年にはアイリスオーヤマ株式会社へと社名変更しました。

 スピード感を持って事業拡大を進め、1980年代から中国や韓国、そして欧米へと拠点や生産工場を設置し、大規模でグローバルなビジネスモデルを早期から構築している企業です。

 2010年代以降は事業の多角化が進み、LED照明や食品業、2021年にはロボット産業にも進出するなど、時代のトレンドや自社のキャパシティに応じたチャレンジを次々と続けています。

アイリスオーヤマ株式会社の強みや特徴

 アイリスオーヤマ株式会社がここまで強力な成長力を得られた要因には、どのようなものがあるのでしょうか。ここでは、同社のビジネスモデルや強みを解説します。

ビジネスモデル

 アイリスオーヤマ株式会社の特筆すべきポイントは、独自の「グローバル業態メーカーベンダーシステム」を構築している点です。

 同社では以前から、メーカー機能と問屋機能をあわせ持つ「メーカーベンダー」という独自の業態を作り上げてきました。商品を小売店に卸すだけでなく、小売店のコンサルティングなども手掛けることで、消費者とのタッチポイントを直接改善して売上向上に努めるものです。

 製造部門に消費者の声を直接フィードバックし、さまざまな製造機能を一元管理することにより、柔軟に技術や素材を活かしながら顧客ニーズに応える商品のスピーディーな開発を実現しています。

 また、素材を軸にする「業種」の観点ではなく、素材と技術を組み合わせた「業態」の観点から商品開発を行うビジネススタイルへと変貌を遂げました。

 現在はこの仕組みをグローバル規模で運用しており、世界中の生産拠点やメーカーと協力しながら、各地の市場に応じて最適なメーカー選定などを実現し、業務をアウトソーシングしています。

事業の強み

 同社の速やかな成長を支えているおもな要素としては、以下の5つが挙げられます。

  • 新商品開発会議
  • 「なるほど」と思わせる企画・提案力
  • スピード経営
  • 豊富な商品点数と顧客接点
  • 物流ネットワークや自動倉庫による高い物流機能

 同社では、アイリスオーヤマの経営幹部が一堂に会する「新商品開発会議」を毎週開催しており、国内外の拠点をつないで意見交換や情報共有を行っています。

 商品についてのプレゼンと質疑応答が行われるなか、最も厳しいチェック項目となるのが工場原価と販売価格です。ほかの企業と比べてどれくらい安いのか、消費者が買いたくなる要素があるのか、価格をもっと下げることはできないかなどが厳しく追求され、この点で「なるほど」という納得感が得られなければ、提案が受け入れられることはありません。

 そのほか、トップダウンによる迅速な意思決定や、開発部門と物流部門が一体化した高速開発が実現していることで、スピード経営による迅速な成果が得られる点も特徴です。

 また、豊富な製品点数も同社のEC事業成功の要となっています。綿密な商品開発会議によって生み出された商品は、消費者ニーズとマッチしたものばかりで、自社ECや通販モールを使い分ける柔軟な販売を通じてユーザーとの接点を創出しています。

 さらに、同社の強力な物流ネットワークや商品管理能力も、チャンスロスのない供給を支える大きな要素といえるでしょう。

 世界最大規模の自動倉庫を有する「大連アイリス物流センター」や、大連の7つの工場を稼働させることで、日本への供給はもちろん、世界への商品供給を実現しています。複数拠点に商品を分散させて自動倉庫で管理することで、低コストで迅速な配送を実現しているのです。

アイリスオーヤマ株式会社の近年の大きな取り組み

 アイリスオーヤマ株式会社の最近の取り組みについて、目立った動きを確認しておきましょう。

食品業界への参入強化

 アイリスオーヤマ株式会社では、食品業界への参入強化を進めています。パックごはんや飲料水といった従来の食品に加え、さらにラインナップを強化することで、消費者のニーズに応える狙いです。

 同社が強みとする全国的な流通網を活用し、食品業界を悩ませる流通コストの削減につなげることで、消費者のニーズ解消や他社との差別化を目指しています。

小売りチェーン向けのコンサルティング事業に参入

 2022年7月、アイリスオーヤマ株式会社は、これまで培ってきた自社商品販売のノウハウを活かし、食品スーパーやドラッグストアなどに売り場づくりや省力化の手法を提案するコンサルティング事業への参入を発表しました。

 同事業では専門の営業担当100人をあてる予定で、2022年12月期には150億円の売上高を目指すとしています。

ネット通販強化に向け女性採用を強化

 インターネット通販事業のさらなる成長に向け、アイリスオーヤマ株式会社では採用活動の強化が進んでいます。特に女性採用の強化に力を入れており、たとえば2020年春の高卒女性の採用人数は、前年比約16%増となりました。

 通販事業を手掛ける同社では、女性社員の成長力や真面目な姿勢を高く評価しており、従業員の約9割が女性で構成されています。

目を通しておきたいアイリスオーヤマ株式会社のトピックス

 その他、同社の気になるトピックスについて、以下で簡単にまとめています。

2023年07月31日:ロボットのハードとソフト全ての内製化の実現に向けてスマイルロボティクス株式会社の全株式を取得

 アイリスグループは、スマイルロボティクスの全株式を取得し、同社がアイリスグループの傘下に入る。なお、2023年8月1日から新社名は「株式会社シンクロボ」となった。

2023年04月20日:カーボンニュートラル社会の実現に向けて国内9工場に「太陽光パネル」設置を決定 CO2排出量を年間約6,800t削減

 同社は、CO2排出量削減の一環として、再生可能エネルギーの活用を推進するため、自社工場の使用電力を賄う自家消費型の「太陽光パネル」を国内9工場に設置することを決定した。

2023年2月23日:アイリスオーヤマがポータブル電源に参入、家電や住設など新分野展開加速

アイリスオーヤマは、家電や住宅設備で新規参入を進めている。昨年12月にはポータブル電源を発売したほか、同社初となるテレビドアホンや、宅配ボックスも製品化した。

2023年2月10日:経産相、賃上げへ意見交換 アイリスオーヤマなど7社トップと

西村康稔経済産業相は、アイリスオーヤマなど賃上げに積極的な企業7社のトップと意見交換した。2023年春闘の本格化に合わせて、各社の取り組みを聞き取り、好事例を広めるかたちで賃上げ機運を醸成したい考え。

2023年1月30日:アイリス、静岡・裾野に飲料水工場 300億円投資

アイリスオーヤマは、静岡県裾野市のトヨタ紡織の工場を取得し、飲料水工場にすると発表した。アイリスとして全国2ヵ所目の飲料水工場となる。総投資額は300億円となる見通しだ。6月にも稼働予定で最大で300人の新規雇用を見込む。

2022年11月18日:公式通販サイト「アイリスプラザ」生活応援宣言、対象品目数を300品目追加し約800品目まで拡大 さらに開催期間を2022年12月31日まで延長

同社は、公式通販サイト「アイリスプラザ」で9月29日(木)より約500品目を対象にした「生活応援宣言」を実施しており、物価高騰が加速化し長期化も懸念されるなか、11月18日(金)18時より新たに300品目を緊急値下げすることを決定した。

2022年11月1日:配膳・運搬ロボット「Servi アイリスエディション」の機能アップデート 最大5台の同時稼働など業務効率を向上させる新たな機能を搭載

同社は、2022年11月1日より、ソフトバンクロボティクスが開発・製造する配膳・運搬ロボット「Servi アイリスエディション」の機能のアップデートを実施する。

2022年10月12日:福島県郡山市とエアソリューション事業の実証実験に関する協定を締結 公共施設内で、「PlasmaGuard PRO™ アイリスエディション」の効果を検証

同社は、福島県郡山市とエアソリューション事業に関する実証実験を行うことを決定し、福島県郡山市と協定を締結した。

2022年9月29日:物価高騰が続く今だから敢えて 生活応援宣言として約500品目(※1)を緊急値下げ ~公式通販サイト「アイリスプラザ」で開催~

アイリスオーヤマは、食品をはじめ多くの生活用品の価格高騰が続くなか、日常生活を支える商品をこれからも安心して手に取りやすい価格で提供したいという想いを込めて、公式通販サイト「アイリスプラザ」内で9月29日(木)10時より生活応援宣言として約500品目を緊急値下げした。

2022年9月1日:STATION BOOTHで体験した製品を実際に購入できる日本初の実証実験開始 JR東日本とアイリスグループのコラボレーションで地方にOMO(※)という付加価値をお届けします

東日本旅客鉄道とアイリスチトセ、アイリスプラザは、ワーキングブース「STATION BOOTH」内において、テレワーク環境を充実させるアイリス製品を体験し、気に入った製品をECサイトから購入いただけるOMOについての実証実験を開始した。

2022年8月25日:アイリス、プラ製品生産を一部国内移管 円安・運賃高で

アイリスオーヤマ(仙台市)は、中国3工場で製造しているプラスチック製品の一部について生産を日本国内に移管することで、円安長期化や海上運賃の高騰などで中国から日本への輸出コストが上昇していることに対応する。

2022年7月19日:法人事業の基盤を拡大 「ストアソリューション事業」に新規参入

アイリスオーヤマは、法人事業の基盤を強化、拡充するため、小売店舗の価値創造と課題解決を総合支援する「ストアソリューション事業」に新規参入する。

2022年6月29日:アイリス、物流倉庫面積3割増へ 大型家電やEC好調で

アイリスオーヤマは倉庫など物流投資を拡大しており、2022年7月に宮城県の倉庫を稼働させ、2023年7月には埼玉県でも新倉庫稼働を予定している。

2022年5月24日:アイリス、空間除菌に参入 オフィス向け装置発売

アイリスオーヤマは24日、空間除菌や空気清浄といったエアソリューション事業に参入すると発表し、新型コロナウイルス禍後に人の移動が活発化することを見込んでオフィスなど向けの除菌装置を発売した。

まとめ

 日本を代表するメーカーであるアイリスオーヤマ株式会社は、今や国内外に拠点を有し、国内はもちろん、グローバルな需要も満たす一大企業へと成長しました。

 驚くべきスピードで成長を実現している背景には、迅速な意思決定や製造と物流が一体化した生産機能を世界中に有していることなどが挙げられます。特に、同社の物流機能は優れたコストパフォーマンスや食品事業への参入を支える要となっており、ネット通販事業にも大きく貢献しています。

 今後も消費者のニーズに応じたスマートな商品開発と生産機能を活かし、さまざまな業界で活躍することが見込まれる企業といえるでしょう。

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この記事の著者

EC研究所(イーシーケンキュウジョ)

ECについての情報を調べ、まとめてお届けします。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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