フェムテックとは?
フェムテックと聞いて、何を思い浮かべただろうか? フェムテックとは、近年、耳にする機会が増えた「Xテック(クロステック)」のひとつで、Female(女性)とTechnology(テクノロジー)を掛け合わせた造語のことだ。技術の力で、女性特有の健康課題の解決やサポートをする製品やサービスを指す。
女性には、月経や妊娠、出産、子育て、更年期などのライフイベントがある。女性特有の疾患やセクシャル・ウェルネス(性の健康)も課題のひとつだ。タブー視されていたり、話題にするのが憚られたりという現実がないとはいえないものの、女性の悩みや課題を解決しようとする動きが年々高まっていることは間違いないだろう。
フェムテックとフェムケアの違い
厳密にいうと、フェムテックとフェムケアは異なる。フェムケアとは、従来からある女性向けの健康課題解決または緩和・改善などのサポート製品・サービスのことだ。近年のテクノロジーを使っているかどうかが両者の違いとされているが、同義や同列で使われる例が散見される。
フェムテックの7つのカテゴリーと代表的な製品
フェムテックには、7つのカテゴリーがある。そのカテゴリーと代表的な製品・サービスは、次のとおりだ。
月経・PMS
月経(生理)は、約1ヵ月周期で訪れる生理的出血をさす。10~14歳ごろに初潮を迎え、閉経を迎える45~55歳ごろまで、約40年間という長きにわたって付き合うものだ。月経前の3~10日間には、イライラや腰痛、胸の張りなどの症状を伴うPMS(月経前症候群)もある。自分の意志とは関係なく、定期的に心身に変化が起こる期間が数十年もあることは、もっと理解されるべきだろう。
フェムテック製品・サービスには、「布ナプキン」やショーツ自体が吸水する「サニタリー吸水ショーツ」、膣内に挿入する「月経カップ」、経血用洗剤、PMS緩和薬、月経周期や排卵日を予測・管理する「月経管理アプリ」、「オンラインピル処方サービス」もある。オフィスのトイレに誰もが自由に使える置きナプキンをし、アプリ登録の上で提供する会社も登場した。
妊娠・不妊
約10ヵ月という妊娠期間には、さまざまな心身の変化が起こる。無事に出産したら、子育ての始まりだ。初産の人にとっては、世界が一変するような出来事だといっても過言ではないだろう。また、妊娠を望んでいるにもかかわらず授からずに悩んだり、医療費を支払いながらひそかに努力を重ねたりしている人もいる。
妊娠期間のフェムテックには、よく知られている「マタニティウェア」や「腹帯・骨盤ベルト」「カフェインレスドリンク」などがある。不妊はデリケートな話題のため、身近な人に相談しにくいという一面があり、「妊活支援・婦人科検索アプリ」や「医師・看護師・助産師にオンラインで相談できるサービス」が登場している。
産後ケア
出産後は、体が元に戻ろうとする中での24時間体制の子育てで、心身ともにバランスを崩しやすい時期だ。産後の不安やうつには、身近に子育てをサポートしてくれる人がいるかどうかが大きく影響する。
よく知られているのは、骨盤の戻りを助ける「ガードル」や産後の皮膚をケアする「ボディケア用品」、産後の肥立ちや授乳に備える「サプリメント」や「カフェインレスドリンク」、「(電動)搾乳機」などだ。産後の不安やうつには、「助産師による電話や訪問相談」に加えて「アプリやオンラインでの悩み相談」などがある。
更年期
更年期とは、閉経前後の5年ずつ、計10年間を指す。閉経の平均は約50歳だが、40台前半から50台後半に迎える人もあり、時期だけでなくその症状も個人差が大きい。症状には、ホットフラッシュやめまい、動悸、意欲の低下、イライラなどがあり、日常的に症状に悩まされることが多いのが特徴だ。
ホルモンバランスの乱れを改善する「サプリメント」に加えて、骨密度をケアする「食事メニューの提案」や尿漏れ・頻尿改善のための「骨盤底筋トレーニングメニュー・トレーニンググッズ」が挙げられる。更年期のつらさを面と向かってパートナーに訴えにくい人向けにコミュニケーションを助けるアプリもある。
婦人科疾患
婦人科疾患には、不正出血や子宮筋腫、子宮内膜症、子宮がん、卵巣腫瘍などがあり、月経前症候群や更年期障害も含まれる。それぞれの疾患には発症しやすい年代があり、子宮頸がんはワクチンの予防効果が認められている。乳がんは婦人科系疾患ではないが、そのイメージが強いといえるだろう。
婦人科系疾患を手厚くサポートする「女性向けの保険商品」は、広く知られているフェムテックのひとつだ。同じ疾患を経験した人が集まり助け合う「コミュニティ」もある。病気予防や免疫力向上のため、腸内環境ならぬ「膣内環境を整えるサプリメント」も発売されている。
ヘルスリテラシー
ヘルスリテラシーとは、健康に関する情報を理解し、活用できる力のことだ。例えば、医師の説明を理解する力や病気になったときの薬の飲み方、どのようなセルフケアをするかなどが挙げられる。それに加えて、初期症状に気づくことや必要な情報の入手方法、症状に応じた適切な対応力も問われる。
ヘルスリテラシーは、理解力や質問力ともいえるもので、能力を伸ばすには相応の時間が必要だ。この言葉自体にまだなじみがない人も多いだろう。昔からあるものとしては、健康講座という枠組みの中で、食生活や運動などの生活習慣、運動についての講習などが行われている。
近年では、女性特有の疾患やその発症傾向について理解を深めるためのWebサイトや「オフラインやオンラインでのセミナーや企業研修」が増えつつある。テクノロジーを使ったフェムテックというイメージに近いものには、「オンラインイベントやセミナー」、ウェアラブルデバイスと連動させた「健康管理アプリ」などが挙げられる。
セクシャル・ウェルネス
セクシャル・ウェルネスとは、性を人の健康の要素のひとつとする考え方だ。WHO(世界保健機構)によると、「セクシャリティ(性)に対して身体的、感情的、精神的、社会的に健康な状態であること」とし、喜びも必要としている。
女性向けの一見そうとはわからない、おしゃれなセルフプレジャーアイテムや高品質なアイテムが続々と発売されている状況だ。コスメのようなデザインの「小型バイブレーター」やスタイリッシュな「ローター」、ほのかな香りが楽しめる「ローション」、衛生面を考慮した使い切りタイプもある。膣トレーニングのアイテムも増えている。
フェムテックが注目される2つの理由
ここでは、フェムテックが注目される理由を見ていこう。主な理由は2つで、社会的な機運の高まりと市場としての可能性といえる。
2019年の経済産業省の発表によると、「女性特有の月経随伴症状による労働損失は4,911億円」とされている。この損失を改善するためにフェムテックが期待されているのだ。このような試算がされるようになったのは、ジェンダー意識の高まりやSDGsの影響があるといっていいだろう。
日本はジェンダー格差の高い国だ。世界経済フォーラムの「ジェンダー・ギャップ指数2021」によると、日本は156カ国中120位。この15年間、スコアは横ばいで順位を徐々に下げている。コロナ禍で注目されるようになった生理の貧困も記憶に新しい。SDGs全17の目標のうち、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」は、フェムテックを後押しする存在だ。
フェムテックには、成長市場としての期待もある。世界では1000億円市場ともいわれ、日本ではベンチャー企業が多かったフェーズから大企業も参入するようになってきた。フェムテックに積極的に取り組んでいることが企業としての価値を高めるという一面もある。今後のフェムテック市場から目が離せない。