ECサイト作成後は継続的に運用管理を行っていく必要があります。ユーザーのニーズを適切に反映させるには、できるだけ管理しやすい仕組みを整えておくことが大切です。
そこで有効活用したいのが、ECサイトのフロントエンドとバックエンドを切り離して運用する仕組み「ヘッドレスコマース」です。
今回は、ヘッドレスコマースの基本的なポイントやメリット、導入事例などを詳しく解説します。
ヘッドレスコマースとは?
ECサイトを柔軟に運用するには、ヘッドレスコマースの仕組みを理解しておくとよいでしょう。基本的な概念や仕組みについて解説します。
ヘッドレスコマースの定義
ヘッドレスコマース(Headless-Commerce)とは、ECサイトのフロントエンド(ヘッド)とバックエンドを分離させることが可能なECプラットフォームを指します。
ECサイトにおけるフロントエンドは、ECサイトの見た目やユーザーとの接点となる部分です。一方、バックエンドとは在庫管理や決済など、裏側で機能している運営部分のことをいいます。
ヘッドレスコマースではバックエンドに依存せず、フロントエンドを自由に開発できるという特徴があります。
ヘッドレスコマースは、顧客に最適な購買体験を提供することを目指す考え方に基づくものであり、フロントエンド部分にチャットボットやAIスピーカーなどを導入することで、手軽に使えるECサイトを構築できます。
ECサイトのフロントエンドとバックエンドが分離されているからこそ、フロントエンド部分だけを変更することが可能になるのです。
ヘッドレスコマースの導入は、ECサイトにおいて次のような悩みを抱えている企業に向いています。
- ECサイトのフロントエンドを改善したいが、あまり時間をかけられない。
- チャットボットやスマートスピーカーによる注文など、ユーザーと多様な接点でつながりたい。
- 社内のエンジニアをフロントエンドの開発などに専念させたい。
ユーザーとの接点が多様化し、ニーズの変化が激しいECサイトにおいては、フロントエンドとバックエンドを分離させたほうが柔軟に対応しやすくなるでしょう。
ヘッドレスコマースの仕組み
ECサイトはフロントエンドとバックエンドによって構成されており、一般的に2つは分かれておらず、一体のものとして運用されています。
そのため、フロントエンドに変更を加えようとすると、バックエンドも何らかの影響を受けることがあります。ECサイトの更新作業を行うときに、大がかりな作業が発生する場合もあるでしょう。
一方、ヘッドレスコマースではAPI(Application Programming Interface)で連携することで、フロントエンドとバックエンドを切り離して管理することが可能です。APIコールによって、必要なデータがバックエンドに受け渡される仕組みであり、ECサイトのUIを最適化するのに役立ちます。
また、ヘッドレスコマースの導入によって、従来は難しかったフロントエンドとバックエンドの同時開発といったアプローチも可能となり、開発にかかる期間を短縮できます。 売上アップのためのECサイトづくりも進めやすくなるため、ヘッドレスコマースの仕組みを上手に取り入れるとよいでしょう。
ヘッドレスコマースのメリット
ヘッドレスコマースの仕組みを導入することによって、多くのメリットを得られます。具体的にどのようなメリットがあるのかを解説します。
ECサイトのシステムに依存せずに済む
従来の仕組みでは、フロントエンドだけを自由にカスタマイズすることが困難でしたが、ヘッドレスコマースに移行すれば、ECサイトのシステムに依存しない運用が可能となります。
また、バックエンドの制約によって、思うようにカスタマイズができないケースもありました。ヘッドレスコマースに移行すれば、フロントエンドとバックエンドを分離させることによって、システム上の制約が減り、スピーディーに施策を実行しやすくなります。
ヘッドレスコマースの導入は、企業側だけでなくユーザー側にとっても大きなメリットがあるといえます。
開発や改善を効率化できる
従来はバックエンドの開発が終わってから、フロントエンドを開発する手順であったため、ECサイトを作成するまでに多くの時間を必要としていました。
一方ヘッドレスコマースの場合は、フロントエンドとバックエンドの開発を同時に進められるので、時間や手間を軽減できる点がメリットといえます。
さらに、ヘッドレスコマースの場合、バックエンドの開発を外注して、フロントエンドは自社のエンジニアで対応するといった取り組みが可能になります。フロントエンドの開発や改善に作業を集中できるので、新機能を追加したり、ユーザーニーズや市場の変化に合わせたりと、柔軟な対応ができるようになります。
幅広いチャネルに展開してユーザーとの接点が増える
スマートフォンの普及や通信環境の整備によって、昨今ユーザーの検索行動に変化が見られます。従来はブラウザから検索してECサイトにアクセスする流れが一般的でしたが、最近ではモバイルアプリやスマートスピーカー、SNSなどさまざまなチャネルを通じてユーザーと接点を持つ機会が増えてきました。
API連携を活用すれば、複数のチャネルでの展開が可能になり、ユーザーとの接点を効率よく増やすことが可能です。また、ヘッドレスコマースなら複数ECサイトの同時構築も手軽に行えます。
さらに、ECサイトのブランドやカテゴリに応じて、ターゲットとするユーザーに合わせた運用も可能です。売上が伸びているブランドをサイトとして独立させたり、オンラインポップストアとして展開したりと、活用次第でさまざまなマーケティングに取り組めます。
ヘッドレスコマースは、オムニチャネルやOMOとの相性がよいので、販売チャネルの多様化やオンライン・オフラインの融合を求める場合は、導入を検討してみましょう。
ヘッドレスコマースの注意点
ヘッドレスコマースには多くのメリットがありますが、実際に運用するにあたっていくつか注意しておきたい点もあります。ここでは、2つのおもな注意点を解説します。
専門的な知識が必要
ヘッドレスコマースでは、フロントエンドとバックエンドを分離して管理するため、APIの連携方法などの専門的な知識が必要です。バックエンドの開発を外部に任せたとしても、自社にウェブマーケティングやUIの知識やノウハウがなければ、思うような成果を出せないケースがあります。
また、従来のECサイトを運用する場合よりも高い専門性を求められることもあるため、注意が必要です。社内に適切な人材を配置できるかを検討したうえで、ヘッドレスコマースを導入するかどうかを考えてみましょう。
開発費用と工数がかさむ
従来型の運用体制でECサイトを管理している場合、そのままの状態でヘッドレスコマースに移行することは困難です。必要な工数が多く、その分だけ費用が膨らんでしまうこともあるでしょう。
そのため、ヘッドレスコマースを導入することで得られる成果と費用、工数を照らし合わせたうえで、自社が抱える課題を解決するための取り組みとなるのかを精査することが大事です。
ヘッドレスコマースの活用事例
導入を検討する際は、ヘッドレスコマースの活用によって課題を解決した事例から学ぶことが有効です。ここでは、ヘッドレスコマース活用事例をいくつか紹介します。
Koala(コアラ)
マットレスや寝具などを販売する「Koala」は、Koala Sleep Japan 株式会社が運営するECサイトです。ヘッドレスコマースに対応しているECプラットフォームとして、Shopifyを活用しています。
Shopifyをフロントエンドにすることで、決済や在庫管理、CMS(コンテンツマネジメントシステム)などのバックエンド機能をそれぞれ複数のシステムにAPI連携させています。これによって、素早くコンテンツを配信するだけでなく、ECサイトの負荷を軽減して処理の高速化を実現しています。
ECサイト本体ではなく、別にPWA(モバイルサイト上でネイティブアプリのようなUXを提供する技術)でECサイトを構築しているからこそ、スムーズなコンテンツの配信につながっているといえるでしょう。同じコンテンツページであっても、チャネルによって最適な顧客体験を提供することを実現しています。KoalaのECサイトは全体的にシンプルで見やすい構成となっており、ユーザーが知りたい情報が適切に整理されている印象があります。
また、バックエンドにはヘッドレスCMS「Contentful」を利用しており、Shopifyと組み合わせることでヘッドレスコマースの仕組みを実現しました。
Babylist(ベイビーリスト)
「Babylist」は、ギフトとして欲しいウィッシュリストを共有できるECプラットフォームです。同サイトでは、取り扱っている商品をサードパーティのリテーラー(販売者)から得ています。
ユーザーは商品の品質やサイズを自由に比較することができ、「年齢別のおすすめ商品」や「最安価格」などをひとつのサイトで調べられるのが特徴です。Babylistが提供しているサービスには、「出産を控えている人」と「ギフトを購入して贈りたい人」の2種類のカスタマーエクスペリエンスが存在しています。
ヘッドレスコマースに移行してからは、複数のシステムをひとつのテクノロジー上に統合しています。CMS(Contentful)、注文管理システム(Shopify)、チェックアウト(Shopify Plus)などのシステムを統合することで、運用管理をスムーズに行えるようになりました。
新しいヘッドレスサイトでの注文は前年比約145%に上昇し、初月以降の月間iOSアプリチェックアウトでは300%上昇という成果を出しています。また、オンラインプラットフォーム経由のギフトは、前年比約102%の成長を実現しました。
ターゲット層のニーズを的確に把握したうえで、より利便性の高いECサイトの構築に成功したといえるでしょう。
Lancôme(ランコム)
高級化粧品ブランド「Lancôme」は、モバイルからの流入に対応するために、ヘッドレスコマースへの切り替えを実施しました。PCよりもモバイル端末からのCV(コンバージョン)が低かったため、スマートフォンから閲覧したときの見やすさや操作性を改善する狙いがありました。
ヘッドレスコマース導入後は、ユーザーにとって使いやすいページとなり、以前よりもCVが約17%増加しました。2020年には、シンガポールでバーチャルポップアップストアを開店したことでも話題となっています。
さらに、チャットボットを活用して、ユーザーがウェブからカウンセリングを体験できる仕組みを整えました。ヘッドレスコマースを活用することで、自社のターゲットに新たな購買体験を提供することに成功しています。
Amazon(アマゾン)
「Amazon」はヘッドレスコマースの導入によって、ワンクリックで決済できるようにしたり、音声のやりとりだけで商品が購入できたりする機能を開発しています。複数のチャネルから買い物を楽しめる環境をユーザーに提供し、スピーディーな決済ができるのがヘッドレスコマースの特長でもあります。
そのほかにも同社はSnapchatと提携し、ビジュアル検索ツールのテストなども行っています。
このようにヘッドレスコマースを導入することで、SNSとの連携によるソーシャルコマースもより手軽に実現可能になっています。
Outfitter.jp(アウトフィッター・ドット・ジェーピー)
「Outfitter.jp」は2020年6月に、イオングループの新会社であるイオン・シグナ・スポーツ・ユナイテッド株式会社の事業としてスタートしたECサービスです。
同サービスでは、ヘッドレスコマース導入によって、自由なUIを実現しています。それにより、自分好みのユニフォームを自由にカスタマイズするというユーザーの購買体験を実現しました。
また、スポンサー企業のロゴをユニフォームに入れることで、購入価格が最大で半額になる点も特徴で、これまで難しかった販売方法を実現した事例といえます。
まとめ
ヘッドレスコマースは、ECサイトのフロントエンドとバックエンドを分離して運用するため、サイトの更新作業などをスムーズに進められるというメリットがあります。一方で、実際に導入するには専門的な知識が必要になる部分もあり、社内に必要な体制を整えられるかがカギになるといえます。
ヘッドレスコマースの基本的な特徴や仕組みを把握したうえで、自社の課題解決につながるのかを検討してみましょう。各社の活用事例などを参考にして、ヘッドレスコマースのメリットを活かすことが大切です。 よいので、販売チャネルの多様化やオンライン・オフラインの融合を求める場合は、導入を検討してみましょう。