学生時代の研究が起業の起点に 意識するのは「引き算」の商品開発
高松(フロアスタンダード) まずは、ORYZAEというブランドについて教えてください。
小泉(アグクル) ORYZAEは、「腸内から健康と美しさを支える」をコンセプトに開発された、「ビューティーフード」と定義した商品を販売するブランドです。現在は、砂糖を一切使わず、麹とオートミールを合わせて焼き上げたグラノーラと、「これをかければどんな食べ物でも簡単に発酵食品として摂取できる」という状況を目指して作った糀ソース、今まで麹が苦手で飲めなかった方でも甘酒のようにおいしく飲むことができる麹ドリンクを開発して商品展開しています。
高松 砂糖や甘味料を使っていないにもかかわらず、おいしく腸に良いものが摂取できるということですか? どのようなことを意識して商品開発されているのかお聞かせください。
小泉 栄養学にはさまざまな説がありますが、私は腸内環境が良い状態であれば栄養素も吸収でき、日々の不調も改善されるという考えを根本に持っています。その説を支える存在として、発酵食品である『麹』に着目しました。お米を発酵させた麹を原材料として食べやすいものに変え、それを通して健康になってもらう。ORYZAEは、そこを目指しています。
なお、私たちは「足し算」ではなく「引き算」の商品開発を意識しています。世の中で販売されている健康食品は「●●の効果があるため、この栄養成分も加えました」と何かをプラスした商品が多い印象がありますが、ORYZAEの商品開発は「とにかくシンプルな原材料で、素材そのものが持つ栄養価と発酵をかけ合わせて最大の健康を手にしよう」という考えです。実際にパッケージを見ていただくとわかりますが、「原材料」と「麹」しか使わず、とにかくシンプルにすることを意識しています。
高松 麹に着目したきっかけは何だったのでしょうか?
小泉 私は農学部出身で、大学時代に発酵の研究をしていました。麹の魅力に気づく前はお米について勉強していたのですが、当時日本の農家の約60%がお米を育てているにもかかわらず、売っても儲からないことから国に毎年「生産量を減らしてほしい」と言われている事実を知ったのです。
自分の中では「農業=お米」というイメージを強く持っていたので、それまでは「日本の田園風景や稲作文化が残れば、人々の心も豊かでいられるのではないか」と思っていました。しかし現実はそうでない上、お米を大量消費するにも限界がある。そこで「何か新たな形でお米を消費できるようにすれば、もっと日本の農業に貢献できるのでは?」と考え始めたところで麹に出会いました。そして、ものすごく未来を感じたのです。
麹であれば、現在ORYZAEが作っているようなソースやドリンクに加え、グラノーラの甘みの素といったように皆様が想像していないものにも変えることができます。腸内環境を整える効果がある点も着目した理由のひとつではありますが、お米を麹にすることで消費者の健康を守ると同時に「日本の農業をもっと盛り上げていきたい」という想いを解決できる。これに気づいたことが今の事業の原点です。
高松 「起業家として成功したい」という想いももちろんあるとは思いますが、それ以上に「自分が日本の農業を変えたい。そのために事業をやりたい」という想いが先行していたということですね。
小泉 そうですね。大学2年から3年生の頃に「麹だ!」と思って私は活動を始めたのですが、これで大学卒業と同時に会社に就職すると、期待してくださった農家の方々や応援して商品を購入してくださった皆様を裏切る結果になってしまうのではないかと感じていました。この活動を続けるためにはビジネスにする必要がある。そう思ったのが、アグクルという会社を設立した経緯です。
高松 私の主観ではありますが、D2Cブランドを設立する方は「起業家として成功したい方」と「イノベーションを起こして課題をクリアしたいと考える方」に二極化すると思っています。小泉さんは後者ということですね。