近年、ビジネスにおいて商品やサービスの品質はもちろんのこと、商品を購入する際の一連の顧客体験も重要視されています。そして、顧客体験の価値を高めるために欠かせない指標のひとつがNPSです。顧客満足度と並んで活用されるケースが多いNPSですが、どのような特徴があるのでしょうか。
この記事では、NPSの概要や計算方法、有用性や活用方法などについて解説します。
NPSとは?簡単に説明
NPSとは、「Net Promoter Score(ネットプロモータースコア)」の略称で、顧客が自社や自社ブランド・商品に対して感じている愛着度(いわゆる顧客ロイヤルティ)を測るための指標です。アメリカのコンサルティング企業であるベイン・アンド・カンパニーのフレッド・ライクヘルドを中心としたグループによって開発され、現在では多くの企業で採用されています。
NPSの計測によって、顧客体験を改善していくために必要な戦略策定や効果測定を実施できます。また、NPSは事業の成長性と相関が強いことが知られており、企業価値を測るための指標として用いられることも多いです。
NPSの計算方法
インターネットのECサイトで商品を購入したり、企業のWebサイトを閲覧したりする際、「あなたはこの商品を友人・知人にどの程度勧めたいと思いますか?」という質問に0~10点の11段階で回答したことはないでしょうか。これが、NPSを測るためのアンケートです。
NPSの考え方では、アンケートの回答者のうち0~6点を「批判者」、7・8点を「中立者」、9・10点を「推奨者」と分類します。このとき、推奨者の割合を批判者から引いた数値がNPSです。たとえば、推奨者が50%、批判者が15%であれば、NPSは35となります。
分類 | 点数 |
---|---|
批判者(Detractors) | 0〜6点 |
中立者(Passives) | 7・8点 |
推奨者(Promoters) | 9・10点 |
NPSと顧客満足度の違い
従来、カスタマーボイスを確認するための方法として顧客満足度調査を実施してきた企業は多いですが、NPSと顧客満足度にはどのような違いがあるのでしょうか。以下で両者のおもな違いについて解説します。
明確な計算式の存在
まず挙げられるのが、明確な計算式の存在有無です。NPSは、先述のとおり、明確な計算式が存在するため、競合他社や商品との比較が容易にできます。 一方で、顧客満足度の測定においては明確な定義がなく、企業によってアンケート項目は異なります。そのため、調査の結果を他社と比較することが難しいです。
収益性との連動
NPSでは、「この商品を知人・友人にどの程度勧めたいか」という質問をすることで、その商品が将来的に売れていくかどうか、つまり今後の収益性や企業価値などのポテンシャルを測ります。 一方で、顧客満足度は調査方法にもよりますが、一般的には商品の購入やサービスの利用により、現時点で顧客が満足しているかどうかを測るものです。このように、両者は測定する時間軸が異なります。
NPSはなぜ有用なのか、わかりやすく解説
次に、NPSがなぜ多くの企業で利用されているのか、NPSの有用性について解説します。
1.計算が容易かつ明確である
先述したとおり、NPSはシンプルなアンケートと計算式で計測可能です。そのため、データ分析の専門家でなくても簡単に管理できます。
また、直感的にわかりやすく、社内で共有する指標として合意を得やすい点もメリットです。NPSを社内の共通指標とすることで、どの商品・サービスに発展性があり、今後注力していくべきかを比較検討する際に役立ちます。
2.自社顧客の特性を分析できる
NPSでは、顧客を推奨者・批判者・中立者の3つに分類します。これにより、自社にどのようなカテゴリーの顧客が多いのかを知ることができます。
たとえば、一部の熱心な推奨者がいる場合は、いわゆるファンマーケティングと呼ばれる、自社に利益をもたらしてくれるファンを対象とした戦略が有効です。一方で、批判者が多いようであれば、どのような理由で批判者となっているかを深堀りすることで商品やサービスの改善につなげるための施策を検討できます。
3.業界内でのポジション把握が可能
NPSは世界共通の指標であるため、業界平均や競合他社と比較することで、その業界における自社のポジションを把握できます。
NPSスコアが上がらないようであれば、自社が顧客に提供している体験価値に不足があるということです。その場合は、追加でアンケートを実施するなどして、顧客が不満に感じている点を深堀りし、顧客体験価値の向上を目指す必要があります。
NPSの活用方法と活用時のポイント
ここから、NPSの活用方法や活用時の注意点について紹介します。
アンケートの設置
NPSを計測するためには、Webサイトなどにアンケートを設置する必要があります。一般的に、アンケートへの回答は顧客の負担になりやすいため、設置方法には十分に注意しなければなりません。どのようにアンケートを設置すれば顧客にストレスを与えないか、専門家の意見も聞きながら設計すべきでしょう。
十分な回答数を確保する
NPSを正確に計測するためには、一定以上の回答数が必要です。 統計学的な観点から、上下5%以内の精度でNPSを計測するには400以上のサンプルが、上下2%以内の精度とするには2,000以上のサンプルが必要といわれています。 とくに商品やサービスの数が多ければ、個別の計測が困難なケースもあるでしょう。そのような場合は、十分な回答数が取れるように集約して調査を実施するなどの工夫が必要です。
NPSの計測結果をもとに課題を洗い出す
単にNPSを計測しただけでは、自社の売上拡大は見込めません。重要なのは、計測されたNPSの結果をもとに、どのように行動するかです。
まずは、NPSが低い商品・サービスに対して追加で調査を行い、課題を洗い出すステップにつなげましょう。
顧客がその商品・サービスを他者に勧めたいと思うかどうかは、顧客体験が大きく影響します。よって、追加のアンケートでは、どのような体験が回答に影響したかを答えてもらうことで、原因を深堀りできます。
追加のアンケートを行う際、まず自社の商品・サービスが購入・利用されるまでの一連の顧客体験プロセスをフロー化するとよいでしょう。
顧客の体験をフロー化できたら、各体験がどの程度NPSの推奨度に影響したかを質問に追加します。例えば、次のようにアンケートを実施することが一例となります。
NPSの測定 | 「この商品のおすすめ度を10点満点で評価してください」 |
追加質問 |
「上記の回答にあたって、以下のどの項目が影響しましたか?」
|
施策の実施と継続的な改善
課題の洗い出しができたら、具体的な改善策を検討・実行します。たとえば、「商品の検索画面が見づらく、探したい商品を探せない」という不満が見られる場合は、検索画面のUI・UXを改善します。 なお、NPSは一時的な取り組みとせず、定期的に計測し続けることで、施策の効果や改善状況がより明らかとなります。
日本人の特性を考慮する
日本人は中間値を選びやすい傾向があるため、NPSが低くなる傾向があります。実際にアメリカのコンサルティング企業であるSatmetrix社のレポートでは、日本の顧客は他国と比較してNPSが低く出やすいという報告がなされています。 他国の企業とNPSを比較する際には、このような日本人の特性も考慮しましょう。
まとめ
NPSの概要や計算方法、有用性、活用ポイントなどを解説しました。NPSは世界共通の指標として多くの企業で利用されており、他社比較がしやすい点が大きなメリットです。自社が提供している顧客体験価値を客観的に評価するためにも、NPSの導入を検討してみてはいかがでしょうか。