「顧客シェア」時代の自社ECサイトの戦いかた
高崎さんはまず、ECに関するマーケットの話題から口火を切った。2020年には20兆円、7%にまで伸びると予測しているものの、東京五輪の開催とともに、その後は停滞するのではないかと分析。
マーケットがそのように変化していくなか、自社ECサイトの戦いかたとしては、市場に占める自社の割合「市場シェア」から、特定顧客に占める自社の割合である「顧客シェア」を拡大すべきだと高崎さん。「顧客に寄り添い、分母を広げる」施策を打っていくべきなのだ。
そのために、まず「新規獲得」で注意すべきは、CPA(1人の顧客を獲得するのにいくらかかったか)よりもROAS(投資の何倍利益が上がったか)、ROASよりもさらにLTV(1年でどれだけ買ってくれたか)という指標で広告効果を見ることが重要だと言う。長期的に見て計画的に広告コストを投下する必要があるのだ。
そのためには、「顧客のデータベースをしっかりと持ち、広告の効果測定とあわせて見ることが欠かせない」そうだ。
リピーター醸成(1)モールからいかに本店へ誘導するか
新規獲得した顧客を、いかにリピーターに育成すればいいのか。Eストアーのコンサルティングサービスを利用しているEC事業者は、自社ECサイトを「本店」とし、複数のモールに「支店」を出店しているというパターンが多い。
「たとえば、モールにはセール品を、自社ECサイトには新商品やコンテンツを置き、自社ECサイトでリピートしていただいて利益を出す、というやりかたが多くなっています」
リピーターに自社ECサイトに来てもらうための施策としては、「メールの題名、本文にもショップ名を入れる」、「送付状や梱包するダンボールにショップ名・ブランド名を入れる」、「ショップ名入りのボールペンなどのノベルティを入れる」といった認知拡大のものや、上記のように本店とモール店で商品やサービスで差別化を行うといった具合だ。
「インターネットでメールがあふれている時代ですから、あえて手紙やカタログなど手にとって触れられるものがあると、それだけであたたかみを感じてもらえます。そうした取り組みを繰り返すことで、結果的に自社ECサイトへの興味がわいてきます」
リピーター醸成(2)顧客カテゴライズと施策シナリオ
すべての顧客に同じ情報を一斉配信では、効果が出にくい時代。高崎さんは、「顧客をカテゴライズし、施策のシナリオを分けるべきだ」と言う。というとマーケティングオートメーションを連想してハードルが上がるが、一般的には、顧客を10パターンくらいにカテゴライズするところから始めればいいと言う。
ある食品会社は、このカテゴライズを踏まえ、「いつリピーターになったのか」、「なぜリピーターになったのか」という切り口から施策を考え、改善。引き上げ率が150%に伸びたと言う。
1.いつリピーターになったのか
初回のお届け日から2回目までの期間を見たところ、「50%以上が1週間以内に再度購入」「リピーターの80%が1ヶ月以内に購入」という2つの山を発見。そこに対するアクションをしっかりと行った。
2.なぜリピーターになったのか
商品を分析したところ、トライアルセットよりも他の商品のほうがリピート率が高いことがわかった。トライアルセットの内容を変える、そもそもトライアルセットへの誘導を減らし、リピート率が高い商品への誘導を優先的にする、などの施策を行った。
自社ECならではの分析:売上/PVで中位以下をチューニング
売れ筋商品が売上の大半を占めるというのは常識だが、逆に考えれば、中位・下位の商品の売上が上がれば、ショップの売上が安定してくる。中位・下位へのプロモーション施策を考える際、「売り上げとPVの相関関係」を見てはどうか、と高崎さん。
たとえば、80万円売れた「商品B」の詳細ページが8,000PVだとしたら、1ページあたりの売上貢献は100円となる。50万円売れた「商品C」の詳細ページが1,000PVなら、同500円になり、「商品C」の露出を増やしたほうがよいと考えられる。
同様の考えで、自社ECサイトに掲載しているバナーもテスト、張替えを行っていく。「売れるページへと網を張っていくほど、回遊率が上がっていくというデータもあります」(高崎さん)。モールはこうした分析がしにくいが、自社ECでできたテンプレートを反映すればいいわけだ。
ペルソナ、カスタマージャーニーを設計せよ
これまでいくつか、具体的な施策を見てきたが、要は「顧客と向き合うこと」が重要だと高崎さんは言う。よく言われることであるが、実行はなかなか難しい。
たとえば、顧客のペルソナを設計していないEC事業者が多いそうだ。以前と比べ、ペルソナを絞り込むことが難しくなってはいるが、以下の手順で、3つほどのボリュームゾーンを作っていきたい。
- 想定顧客をいくつかのグループに分ける
- その中で複数の人が最もボリュームゾーンだと思ったグループでペルソナ作成開始
- 顧客に関する情報収集(インタビュー、ネットリサーチ、顧客調査、各種データ)
- 調査結果をまとめ、パーソナリティや行動パターンを抽出し、ペルソナを完成させる
- 他のグループでもペルソナを作成する
ペルソナをきちんと設定すれば、コミュニケーションの工数も減り、コンテンツも作りやすくなると言う。
同様に、カスタマージャーニーマップも描けていないところも多いそうだ。こちらは、スマホやタブレットなどで接触が変化し続ける「2」、クチコミなどを踏まえて検討時間が長くなった「3」に特に重きを置いて、やはり設計したいところ。
- ペルソナを元に、顧客が求める結果を明らかにする
- ⾃社と顧客の接触ポイントを洗い出す
- 顧客の購買までの期間、⼼理、行動を洗い出す
- 上記に関する情報収集(インタビュー、ネットリサーチ、顧客調査、各種データ)
- カスタマージャーニーマップを作成する
ペルソナ、カスタマージャーニーマップともに重要なのが、「感覚や想像ではなく、ドキュメント化して定量化すること」。そして定期的に見直しをかけ、会社の財産として残していこうと訴えた。
これからの時代に大事なこと
「時代がモノからコトに変わった」と高崎さん。「リアルでできることはネットでもできる」をモットーに、本にブックカバーをかけて発送する本屋さんや、価格競争に巻き込まれがちなモール内でもコンテンツで差別化をして、比較されずに売れている花屋さんもある。
デジタルの施策に加えて、アナログの施策も行うこと。そうした取り組みが「またこのショップで買いたい」、「この人から買いたい」という世界を醸成し、お客様と長く付き合える関係を築いていけるのではないかと述べ、講演を締めくくった。