顧客視点で見たチャネル統合の意義を考える
EC利用を大きく後押ししたパンデミック。まるで遠い昔の出来事のように感じる人もいるかもしれない。しかし、すっかり実店舗での買い物に戻った今、今度はオムニチャネル化が当たり前となりつつある。
オンラインとオフラインをつなぐことで、シームレスな体験を提供できる。利便性が上がり、顧客満足度も向上する。これは、チャネル統合の大きなメリットだ。しかし、それだけだろうか。『小売チャネル統合と顧客行動の科学 リアルとオンラインをつなぐマーケティングの実証分析』(千倉書房/中野暁 著)は、特に小売に焦点を当て、実店舗とECサイトの連携が必要な理由や、顧客が求める体験について、アカデミックな視点から深く掘り下げている。

著者である中野暁氏は、中央大学 商学部 准教授でもある。小売マーケティングなどを専門に研究を続けてきた人物だ。同氏は、本書の目的についてこう語っている。
複雑・多様化したチャネル環境において顧客の行動を見通すにはどうすればよいのだろうか。本書が大切にしているのは、「顧客視点」の発想である。顧客はチャネルをどのように使い分けているのか。チャネル統合をどのように知覚し受け入れているのだろうか。このような問いを顧客の視点から理解していくことを試みたい。(P6)
デジタル活用が浸透も実店舗重視は変わらないのか?
本書では、顧客を様々なセグメントに分け、行動を分析している。その中で興味深いのが、これだけオンラインが発達しているにもかかわらず、なぜ実店舗を好む人々が一定数いるのかという問いだ。
中野氏の研究では、「実店舗重視型顧客」において大きく二つの類型が確認されている。一つは、普段からデジタルをあまり使わない人。この人々が実店舗で商品を購入するのはうなずける。一方で、もう一つがデジタルを十分に活用しているものの、実店舗で買い物をする人々だ。オンラインが浸透しても、実店舗を重視する考え方は変わらないのか。これに対して、中野氏によれば、後者でもオンラインに移行していく可能性があるという。
さらに注目したいのが、顧客視点でのオムニチャネルのメリットだ。中野氏は「オムニチャネル環境において、連続的な顧客体験および偶発的な顧客体験と顧客満足の関係を捉え、双方の顧客体験が顧客満足につながっていることを見出した(P178)」としている。つまり、オムニチャネルではシームレスさだけでなく、“セレンディピティ(偶然の出会い)”も重要だとわかる。
どのようにして、中野氏はこれらの結論にたどり着いたのか。その内容が、本書では丁寧に解説されている。過去の研究やデータを用いた分析によって、あなたのオムニチャネルへの理解が一段と深まるだろう。