EC化率は停滞?伸び続ける? 2030年までの市況感を予測
━━2025年4月より、お二人は「ECグロース分析」の提供を通して協業されているとうかがい、少し驚きました。「ECグロース」というキーワードで意気投合されるところがあったのでしょうか。お二人から見たEC業界の現状や課題感から、そのあたりを探っていきたいと思うのですが。
本谷(デジタルコマース総合研究所) 2023年の後半から2024年の半ばにかけては、コロナ禍のボーナスタイムの反動で「EC売上がなかなか厳しい」といった声を多く聞いていましたが、今はまた潮目が変わったと思います。
もちろん、企業単位で見れば取り組み度合いなどによって差は出ますが、データで見ても2024年後半以降のEC業界は全体的に良い意味で反転の兆しが見えており、「アフターアフターコロナ」と言える状況です。2~3年程度はこの市況感が続くと見ています。
少し前まで私は「2030年頃にEC市場は飽和してしまう」と発信していましたが、今はその意見を軌道修正しています。この数年ほどの急速な伸びはないにしても、横ばいから再度上向きになっていくと考えています。

━━その理由は?
本谷 少子高齢化によって店舗の維持が難しくなるからです。明るい展望を伝えたいところですが、「トップラインを伸ばし続けるには、EC化せざるを得ない」といった必然性のほうが大きいでしょう。
そうなると、店舗を主軸にした今の日本のオムニチャネル・OMO施策のあり方も変わってきます。EC化率を上げる段階においては、店舗とECサイトを行き来しやすくすることで顧客満足度向上の効果を発揮できますが、店舗の数が減る未来を見据えると、eコマースだけで完結する行動パターンをもっと増やさなければなりません。巻き込む関係者が多いだけに急な方針転換は難しいと思うので、5~10年後の未来に向けてこうした仕組み作りも行っていく必要があると皆さんに伝えたいです。
好調そうに見えても倒産する時代 EC市場に何が起きているのか
井澤(コマースメディア) 本谷さんの意見に同意しつつも、私は市場の総量が変わらずにプレイヤーが増え、勢力図が大きく変わってきた点についてもお話ししたいです。
市場は、川の流れや生き物のように常に変化するものです。実際に、これまでものづくりやEC運営の経験がなくても飛躍的に伸びている企業がある一方で、かつて好調だった企業が倒産するようなニュースも特に2025年に入って増加しています。つまり、「今までこうだったから」では通用しない時代になりつつあるということです。
コマースメディアはモール・Shopify支援どちらも行っているため、双方のコミュニティに参加していますが、それぞれが交わらない点に課題感をもっています。もちろん、社内での役割分担ゆえなところもあると思いますが、既にあるチャネルに固執すると市場の主流や主力プレーヤーの変化にも気づけません。売れているうちは良いですが、軌道修正のタイミングをみすみす逃すと、気づいたら資金が回らなくなって倒産してしまいます。もう少し全体最適の視点を身につけてもらいたいと思ったのが、「ECグロース分析」の提供を始めた理由の一つでもあります。
本谷 過去にECzineの連載でも言及しましたが、日本の小売市場規模は30年間ほぼ横ばい状態です。大きさが変わらない中で全員が売上アップを目指すということは、パイの取り合いなんですよね。社内で「自社EC vs モール」と競っても無駄で、顧客の動きを見ながら柔軟にパワーバランスを変えていかなければならないのですが、これを実現できている組織はなかなか少ないです。
井澤 自社ECとモールだけでもこんな状況なのに、TikTok Shopまで出てきましたからね。ソーシャルコマースもトレンドワードとして皆さん飛びついていますが、対応できる事業者がどれだけ出てくるのかは未知数だと思います。