矢野経済研究所は、国内の防災食品市場を調査し、製品セグメント別の動向、参入企業動向、将来展望を明らかにした。
市場概況
2020年度の国内防災食品市場規模は、メーカー出荷金額ベースで前年度比111.5%の258億5,400万円と推計。2021年度は東日本大震災から10年の節目となり、さまざまなメディアで防災特集が組まれ、災害の脅威を振り返ると共にあらためて関心を高めるきっかけにもなったという。
防災食品市場では、5年を賞味期限とする商品が震災発生から2回目の入れ替え時期を迎えたことで、2021年度は通常よりもまとまった需要が見込まれることから、2021年度の同市場は同121.0%の312億8,300万円の見込みである。
なお、販売チャネル別にみると、防災食品市場では小売業を経由せずに防災専門商社などが直接、自治体や大手民間企業、病院・施設などの末端顧客へ販売するといった特色がみられる。ただ近年、在宅勤務への切り替えにともない、新たに家庭での備蓄需要も発生しており、前回調査時(2019年度)に比べ、一般消費者向けにネット通販がシェアを高めている。防災食品の末端販売チャネル別構成比(2021年度見込み)は、高い順に商社(直販)、ネット通販、スーパー・量販店となった。
注目トピック
病院・施設(特養・老健)で災害時の具体的な対策が存在するのは68.0%
同調査に関連して、2022年1月〜2月に東京(23区)・政令指定都市(20市)・中核市(62市)の地方自治体、大手民間企業、病院・施設(特養・老健)の計151法人を対象に防災食品備蓄需要などに関する法人アンケート調査を実施した。
BCP(事業継続計画)に基づく災害時の具体的な対策の有無についてたずねたところ、民間企業では88.2%、自治体は82.0%が対策を実施していると回答したが、病院・施設では68.0%にとどまった(単数回答)。災害時の対策では民間企業や自治体が先行する一方、病院・施設などではこれから対策を検討するところも少なくないという結果になった。
将来展望
内閣府は、国民にローリングストック(災害時に備えた食品備蓄方法のひとつ)を提唱している。自治体においても、各地域の現状に合った災害発生時のガイドラインや帰宅困難者対策条例を制定し、企業や施設などに非常用物資の備蓄を求めている。また、入札により備蓄量や種類を増やす意見が散見される一方、地域の食品メーカーやスーパーマーケットとも物資協定を結び、災害時には飲料やおにぎりなどの調達を受ける体制を強化している。
しかしながら、地方の中枢・中核都市の民間企業などでは帰宅を優先し、備えのないケースも少なくない。大規模な災害発生時には、備蓄が不足する可能性も見込まれ、防災食品は備蓄の啓蒙とともに全国的な普及の底上げが必要と考えられる。2026年度の防災食品市場規模は319億900万円(2021年度比102.0%)と微増を予測するとのこと。
調査概要
- 調査期間:2021年11月~2022年2月
- 調査対象:防災食品関連企業(食品メーカー、防災用品専門商社)、大口需要家(行政・医療機関・民間企業)など
- 調査方法:同社専門研究員による直接面談(オンライン含む)、電話によるヒアリング調査、ならびに郵送アンケート調査併用