ポイント①与信審査の基礎
新規取引先との取引を売掛払い(請求書払い)で行う際に欠かせないプロセスが与信審査です。与信審査とは何なのか、取引においてどのような重要性を持つのかについて解説します。
与信審査とは
与信審査とは、取引先の支払・返済能力など、企業としての信用度を審査することです。
特に新しく取引を行う企業の場合、相手企業の未払いや倒産等によって債権が回収できず、自社が甚大な被害を受ける可能性があります。
取引に関するリスクを最大限回避するために、取引先にどれだけの返済能力があるかを判断するために行うことを与信審査というのです。
与信審査の意味
与信審査の意味は、未回収リスクを低減させることです。与信審査を行うことで信頼性の高い企業との取引を実現させ、会社の経営を安定させることにつながります。
与信審査には新しく取引を行う企業だけではなく、既存の取引先の定期的な見直しも含まれます。
業績の悪化などによって状況が変化することも考えられるので、どのくらいのスパンで見直しをするのか、あらかじめ決めておくことも重要です。
与信審査の重要性
商品やサービスを提供した後に請求書で支払いを依頼する後払いなどが回収できない場合、大きなダメージを受けることは明白です。
貸し倒れのような状態にならないよう、リスクマネジメントとして与信審査は非常に重要な意味を持ちます。
ポイント②与信審査の流れ
与信審査には大まかな流れがあります。どのようなステップで審査を進めていくのか、4つのフェーズに分けて解説しましょう。
1.情報収集と分析
取引を行う前に、相手企業に関する情報収集や分析を行います。
情報には外部情報と内部情報の2種類がありますが、多方面から情報収集を行うことがポイントです。
- ホームページなどの会社概要
- 法務局で取得できる商業登記簿
- 取引先へのヒアリング
- 営業担当者からの情報
- 商流のリサーチ
- 決算書の分析
情報収集だけで判断ができない場合は、直接相手企業の社長や担当者との面談が有効です。決定までの期間にどれだけ多くの情報を収集し、分析できるかが重要になります。
2.評価
情報分析から相手企業の信用性について評価を下します。
- 業績
- 資本構成
- 規模
- 損益
- 資金状況
など、評価項目をあらかじめ定めておくことで、評価はしやすくなります。
評価の時点で注意したいのが、倒産リスクに対する評価です。相手企業単体で倒産をするリスクだけではなく、連鎖倒産の可能性についても検討しなければいけません。そのためには業界の動向や現状などを常に把握しておく必要があります。
3.与信限度決裁
相手企業の信用性が高く、取引に問題なしと評価されたら、与信限度決裁を行います。
与信限度決裁を行う際には、与信限度額で取引を行う期限も併せて決めることが重要です。与信限度額を決裁するには、収集した情報・取引の期間(売掛期間・手形期間など)・相手企業の純資産などが判断材料になります。
与信限度額は安全な範囲だけではなく、取引に必要な範囲であることも大切なので、手形の決済などの場合は注意が必要です。
4.契約条件の交渉
社内で与信限度決裁が行われ承認されたら、契約条件の交渉を行います。
商取引の基本は契約で成り立っています。次の条件に注意し、契約書を整備しましょう。
- 期限の利益喪失に関する条項:経営状態が悪化した場合ただちに支払いを受けられるようにする
- 契約解除に関する条項:法律で定められている契約解除とは別の自社の基準を設ける
- 相殺予約に関する条項:債権・債務を対等額で消滅させる
- 遅延損害金に関する請求事項:支払いされなかった金額に対し一定の利率を設ける
契約書はトラブルが起きた際の拠り所となるものです。できる限り自社に有利な条件で進められるよう、交渉を行うことを心がけてください。
ポイント③与信審査で注意したいポイント
与信審査は会社の経営を安定させるために、非常に重要なプロセスです。入念な情報収集や知識が必要になり、責任も重くなります。
与信審査で注意しなければいけないポイントを3つご紹介しましょう。
社内の審査基準を明確に決める
与信審査では、社内の審査基準を明確に決めることがもっとも重要なポイントです。
与信審査で避けなければいけないことは、審査の基準が属人化されることだといえます。信用に足る企業の条件を評価項目に挙げ、可視化し徹底することです。
- 公開情報の信用性
- 売り上げの基準
- 取引先の仕入債務
- 取引先の成長性
など、社内の審査基準を明確かつ標準化することで、属人的な与信審査によるリスクを避けることができるでしょう。
専門部署・専門職を設ける
与信審査に関しては専門部署・専門職を設けることが重要です。
与信審査部門は新規開拓を行う営業部門が兼任しているケースが多く見受けられますが、本来営業部門の仕事と与信管理を行う部門の仕事では内容が異なります。
営業部門が兼任している場合、営業成績を上げることを最優先として、与信審査が緩くなってしまうというリスクが考えられるのです。
リソースに余裕がないという企業も少なくありませんが、徹底した情報収集を行ったり、慎重な判断を下したりするには、専門部署の設置はマストであるといえます。
分析は徹底的かつ多方面から行う
与信審査においては、徹底した情報収集が必要です。
さらに多方面からの分析も重要で、相手企業に関するデータをより多く集めなければいけません。
会社概要 | 企業規模・資本金・事業内容など |
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登記関連事項 | 不動産・債権譲渡・動産譲渡など |
決算書記載情報 | 貸借対照表、損益計算書、キャッシュフローなど |
経営陣に関する情報 | 人物像・経歴など |
事業計画 | 拡大・縮小・投資などの将来性 |
これらの項目は情報収集の時点で集めておきたい情報の内容になります。
基本的な項目を元にした相手企業に応じた与信限度額が重要です。情報の入手方法はさまざまで、インターネットの検索で得られるものから、実際に相手企業へ足を運ばないとわからないことまであります。
多方面からの情報をいかに入手し、徹底した分析を行うかというプロセスが、リスクマネジメントとしての与信審査といえるでしょう。
まとめ
与信審査は経営の安定に欠かせない重要なフローです。属人化しやすい評価を社内で標準化・可視化し、基準を明確に設定することがポイントになります。
専門部署・専門職を配置することで、営業部門の負担が軽減し、より徹底した与信審査を行うことができるはずです。情報収集や分析を多方面から行い、企業全体のリスクマネジメントとして与信審査を捉えることも忘れないでください。