クイックコマースは、オンラインで注文した食料品や日用品を届けてくれるサービスです。コロナ禍による巣ごもり需要の高まりなどから、都市部を中心に利用されはじめています。
ECやネットスーパーよりも早く届けられるという強みがある一方で、配達員の確保や在庫拠点の整備などの課題も抱えているのが現状です。
この記事では、クイックコマースの基本的な仕組みや種類、課題などを解説します。
クイックコマースの特徴
新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、配達サービスに対するニーズが高まるなか、多くの企業が「クイックコマース」に参入しています。基本的な仕組みや注目されている理由などを解説します。
クイックコマースとは
「クイックコマース(Qコマース)」とは即時配達サービスとも呼ばれており、オンライン注文から数十分以内に日用品などを届けてくれるサービスのことを指します。注文から配達依頼までオンラインで完結する仕組みであり、ダークストアと呼ばれる配達専用の無人店舗のほか、自店舗や提携店舗などから商品が発送されます。
商品の配達は、自店舗の配達員や個人事業主によって行われています。クイックコマースの特徴として挙げられるのは、ECやネットスーパーよりも早く届くという点です。
ニーズが拡大している理由
クイックコマースを注文してから手元に商品が届くまでの一般的な時間は30分以内で、利便性の高いサービスとして利用されています。
クイックコマースのニーズが拡大している理由としては、新型コロナウイルスの感染拡大による消費行動の変化が挙げられます。消費者が不要不急の外出を控えるようになり、巣ごもり需要が拡大したことで、利用者が増加していったのです。
これまでも欧米諸国を中心にフードデリバリーが普及していました。近年では、コロナ禍で外出機会が減ったことから、食品以外の宅配需要も高まり、フードデリバリーサービスの発展形であるクイックコマースが広がりました。
食料品や日用品といった生活に欠かせない商品の配達はもちろん、従来のフードデリバリー利用者も取り込むことができるため、多くの企業が注目しているサービスといえるでしょう。
クイックコマースの仕組み
クイックコマースのおもな仕組みは2つあります。
1つは「ダークストア」と呼ばれる配送特化型の実店舗や倉庫を設置して配達する仕組みです。一般的なスーパーなどとは異なり、消費者がダークストアに立ち寄ることはできません。ダークストアを配送拠点にして、配達員がバイクや自転車などで近隣のエリアの配達を担います。
もう1つは、大型店舗や多店舗展開をする企業が、自店舗や提携店舗の在庫商品を配達する方法です。店舗から直接配達してくれるので、利用者にとっては安心感があるといえます。
国内で展開するクイックコマースサービスの種類
クイックコマースは市場の拡大から、多くの企業が参入しています。どのような企業がサービスを展開しているかを紹介します。
コストコ
会員制倉庫型スーパー「コストコホールセール(以下、コストコ)」の一部店舗では、フードデリバリーのUber Eatsと提携し、店舗5キロメートル圏内でクイックコマースサービスを行っています。生鮮食料品や日用雑貨、美容や衛生用品など約900品目の商品を取り扱っており、コストコの非会員でも利用できるのが魅力です。
また、最低注文金額が設定されていないので、単品からでも購入可能です。コストコは郊外に店舗を構えることが一般的ですが、クイックコマースを通じて普段コストコを利用していない客層に対してもアプローチが可能になりました。
Yahoo!マート by ASKUL
「Yahoo!マート by ASKUL」は、フードデリバリーの株式会社出前館とアスクル株式会社、Yahoo!の持ち株会社であるZホールディングス株式会社が提携して行っているクイックコマースサービスです。食料品や日用品など約1,500品目の商品を取り扱っており、最短15分で受け取りができます。
2022年中に都内23区の全エリアにサービス拡大を予定しており、順次サービス利用可能エリアを広げているところです。
OniGO(オニゴー)
OniGO株式会社は、2021年8月に東京都目黒区で宅配スーパーマーケット「OniGO」をオープンしました。OniGOでは、生鮮食料品や日用品、冷凍食品など幅広く商品を取りそろえており、注文からわずか10分程度で配達するスピードが強みです。
配達はUber Eatsが行っており、注文可能距離を店舗から半径1~2kmに絞り、配達員を店舗に常駐させています。また同社は約1,800名の栄養士やシェフが登録する出張シェフサービス「シェアダイン」とも提携しており、飲食店の食材や調味料を手軽に調達できる仕組みも整えています。
QuickGet(クイックゲット)
「QuickGet」はコンビニ以上の品揃えを誇る配達サービスで、2020年9月から正式にスタートしました。現在東京都の一部エリアのみが対象ですが、東京都港区エリアでは10人に1人が利用するサービスにまで成長しており、売上も拡大中です。
これまでのサービス提供実績として、平均配送時間11分、30分以内の配送率99%という数値を全エリアで達成しています。最短10分での宅配を目指しており、今後もサービスの充実が期待されています。
カクヤスEXPRESS
酒類の配達サービスを展開する株式会社カクヤスは、株式会社出前館と提携することでクイックコマース事業にも乗り出しています。自社の配送ネットワークと出前館のネットワークの両方を活かし、東京、神奈川、埼玉、大阪などのエリアでサービスを提供中です。
酒類や日用品、ペット用品、介護用品などを無料配送しており、2022年2月より出前館に配達を委託する新サービス「カクヤス EXPRESS」をスタートさせました。約2,500品目の商品を最短15分で届けるサービスであり、利便性の高さから利用者数を増やしています。
クイックコマースの課題
利用者にとっては便利なサービスであるクイックコマースですが、少なからず課題も抱えています。どのような課題があるのかを見ていきましょう。
サービス展開が一部エリアに限られている
各社とも、クイックコマースのサービス拡充を図っていますが、全国的に見ればまだまだ対象エリアが限定されているのが現状で、事業として採算が合わせづらいといった課題があります。
短時間で商品を届けるのがクイックコマースの強みであるため、必然的に注文数が多い住宅密集地である都市部を中心に展開するケースが多く見られます。各サービスで対象エリア拡大を目指しているものの、全国展開は容易とはいえないのが実情でしょう。
商品の在庫に困る場合がある
指定された時間内に商品を配達するには、一定数の在庫をあらかじめ確保しておく必要があります。しかし、ダークストアの店舗数が多ければ多いほど、コストはかさむ一方です。また、取扱商品が多ければ消費者の利便性は高まりますが、その分在庫管理が複雑かつ困難になってしまいます。
サービス利便性の向上と適正な在庫管理のバランスを見極め、調整していく必要があるといえるでしょう。
フードデリバリーとの提携が必要
対象エリアを広げるためには、ダークストアの設置や配達員の確保などが必要であり、自社で配達ネットワークを構築するのは時間や労力がかかります。そのため、すでに一定の配達網を整えているフードデリバリーサービスとの連携が必要だといえます。
まとめ
市場のニーズの高まりとともに、クイックコマースへの注目度は高まっています。現状では食料品や日用品を中心にサービスが展開されていますが、今後はサービス対象エリア内のコンビニやスーパーなどとの差別化をどう図っていくかが喫緊の課題となりそうです。
配送料を支払っても、繰り返し利用するだけの付加価値を提供できるかが、サービス拡充のためのカギとなります。見た目の悪い野菜や賞味期限が迫った食品を割引価格で提供する海外の取り組みなどをモデルに、持続可能性に配慮したサービスを通じたブランディングを行う必要性もあるでしょう。
また、配達ネットワークと在庫の拠点整備、取扱商品の拡充など、消費者のニーズを踏まえながら調整していくことがサービスの定着には必要だといえます。