ECサイトの作り方
自社でECサイトを作る場合、何から手を付けて良いのかわからない方も多いのではないでしょうか。楽天市場やYahoo!ショッピング(ヤフーショッピング)などの場合は、運営側が用意したシステムを活用してECページを作り「出店」することができます。また、Amazonのように商品を「出品」するようなマーケットプレイス型もあります。どちらにしても基本的にはすでにECサイトのしくみがあり、用意されたシステムを活用していく手法です。
しかし、自分たちで作るとなると、用意しなければならないものやツールなどがあります。ここでは自社のECサイトを作る際に必要となる構築ツールや方法などを紹介します。
ECサイト構築ツールを使い、必要な機能を選ぶ
ECサイトには最低限、商品を紹介するページと購入のしくみ(カート機能など)が必要です。支払い機能に関しては、オンラインではなく振り込みなどの方法もありますが、購入完了までのハードルを下げることを考えればオンライン決済の機能も最低限必要であると言えます。
これらのしくみをすべて自分たちで用意するとなるとプログラミングの知識やスキル、潤沢な予算が必要です。しかしECサイトが普及した現在、カート機能やオンライン決済に加えさまざまな機能が有料・無料で利用できるようになっており、これらの構築ツールやシステムをプラットフォームと呼びます。
構築ツールにはASP(Application Service Provider)と呼ばれる安価なものや、オープンソースやクラウドEC、ECパッケージなど実現させたい規模や内容によってさまざまなサービスがあり、これらを使ってECサイトを作るのが一般的です。加えて、システムをゼロから作るフルスクラッチという方法もあります。どのようなECサイトを作りたいか、顧客にどのような購入体験をしてもらいたいかによって構築ツールを選定していきます。
ECサイトに必要な機能(一例)
- カート機能
- 決済機能
- 受注管理機能
- 商品管理機能
- 顧客管理機能
- 販売促進機能
ECサイト構築ツール
- ASP
- オープンソース
- クラウドEC
- ECパッケージ
- フルスクラッチ
ECサイト構築の手段を決めるポイント
ECサイトの作り方はいくつかあり、ECサイトで実現したいことや機能、初期費用とランニングコスト、カスタマイズといった拡張性など、総合的な視点によって選ぶべき構築ツールが変わってきます。それぞれの得意、不得意、特徴などを見比べ、自社に合った構築方法を選ぶようにしましょう。
次の表には参考までにECにおける年商規模も掲載していますが、あくまでも参考程度です。目標とする年商が1億円以下だったとしても、独自のサービスを行いたい、特殊な販売形態である、自社のシステムとの連携は必須であるといった場合は、安価なASPではなく拡張性のあるクラウドECやECパッケージにする選択肢もあります。
また、サービス事業者のサポート体制も重要です。ECサイトのオープン後に技術的なトラブルが発生した場合に対処が可能なのか。サポート体制が整っているのか。対応が迅速であるかどうかも選定のポイントです。
構築方法 | 初期費用 | 月額費用 | 手数料 | 目安の年商 | 難易度 | 機能の拡張性(カスタマイズ性) | サービス例 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
ASP(無料) | 0円 | 無料 | あり | ~1億円 | 低 | × |
|
ASP(有料) | 数千円~数万円 | 数千円~数万円 | サービスによってはあり | ~1億円 | 低 | × |
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オープンソース | 0円 | 10万円台~ | なし | 1億~数億円 | 高 | 〇 |
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クラウドEC | 数百万円~ | 10万円~ | なし | 1億~数十億円 | 中 | 〇(制限ある場合も) |
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ECパッケージ | 数百万円~ | 10万円~ | なし | 1億~数十億円 | 中 | 〇(制限ある場合も) |
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フルスクラッチ | 数千万円~ | 数十万円~ | なし | 数十億円~ | 高 | 〇 |
構築方法を選定する前に、最初に決めたい3つのこと

ECサイトを作るには、最初の段階でどの構築方法にするのかを決める必要があります。しかし、どの構築ツールを使ったとしても、一度稼働させたECサイトのシステムを乗り換えることは、立ち上げ時と同様あるいはそれ以上に手間がかかるのが一般的です。また、システム改修に伴いサーバーを変更すると、高い閲覧数や購買率を誇っていたページの集客力が落ちてしまうことも多々あります。ECサイトを作って1~2年でプラットフォームを変えなければならなくなる事態にならないよう、事前の計画が重要です。
事前に目標年商や投資予算、保守管理体制などを想定することで、自社に最適な構築ツールが決定しやすくなります。
目標年商を決める
ECサイトの構築ツールを選定するにあたり、着目したいのが目標年商です。年間どのくらい、商品やサービスを売り上げたいのか。それによって、システム、使用ツールの性能も合わせていく必要があるためです。
たとえば、ASPはサービスによって登録できる商品数が無制限のものもあれば、1万件以下などと上限が設定されているものがあります。取り扱う商品数や単価によっては上限があると目標年商に届かない可能性があります。
また、目標年商が2億円ほどなのに対し、初期費用が数千万円以上かかるオーダーメイドのフルスクラッチや、多大なカスタマイズを施したECパッケージを選ぶのは過剰な投資と言えそうです。機能拡張などのカスタマイズは、構築ツールの機能と自社の業務フローがあっていない場合の打開策となりますが、本当にその業務フローが最善であるのかなど、幅広い観点で見直す必要があります。
加えて、明確で現実的な目標値はEC担当者のモチベーションアップにもつながります。
投資予算を決める
ここでいう投資予算は初期費用だけでなく、月々にかかるランニングコストやEC担当者の人件費、販売促進費なども含めます。ASPは初期費用や月額費用が無料でも取引ごとに手数料がかかります。目標年商に対しておおよその手数料は事前に算出が可能ですので、ECサイトへの年間予算として計上しておきます。
社内の運用・保守の体制づくりを行う
投資予算にも関係してくることですが、成功しているECサイトの多くが専用部署を立ち上げたり、専任者を選定していたりします。ECサイトの作り方として「最初は小さくスタートする」方法があるものの、その場合でもECサイトを運営する直接の担当者や、在庫、経理など関連する部署におけるEC担当者を選定し、チームとして体制づくりを整えておくことが必要です。
また、周囲にもECサイトの重要性を周知させ、担当者が動きやすくなる体制づくりが求められます。
失敗しないECサイト作りに必要なこと
ECサイトを作るには構築ツールが不可欠ですが、自社のブランディングに合わせてどのようなECサイトを作り、売上全体に貢献できるのかといったECサイトによる販売戦略が前提となります。そして、その戦略を実現するための社内体制が大切です。その中でも見落としがちな2点を紹介します。
メインの担当者を決めて運用
「社内の運用・保守の体制づくり」でも触れたように、ECサイトを運用するメインの担当者を立てることは必須です。ECサイトは1つの店舗であり、実店舗同様に店長となる責任者がいなければ運営もままならなくなるためです。商品登録や商品発送、顧客対応をするECサイトの運用担当者とは別に、全体を見て方向性を決める責任者が求められます。
理想は専任ですが、ECサイト運営が会社として初めてであり、実験的なスタートであることから最初に大きな投資が厳しい場合は、通常業務とECサイト業務を3:7で対応するなど、割合を決めて専任の時間を設けるといった方法もあります。ECサイトは作ればいつかは売れるものではなく、売るためのしくみづくりも重要であり、そのためにはECサイトにしっかりと取り組む時間と体制が必要です。
集客コストをかける
楽天市場やAmazonといったECモールはすでに知名度があり、店舗名や社名、ブランド名の認知度がそれほど高くなくとも、モールの検索結果から一定の集客が期待できます。しかし、自社で立ち上げたECサイトとなると、リピーターやブランド・商品のファン以外にはなかなか告知が難しいのが実情です。そのため、集客はある程度のコストをかけて行うことが求められます。
サイトをSEOを押さえた作りにすることを基本とし、一般的にはGoogleなどのキーワード検索結果に表示するリスティング広告やバナー広告、InstagramやX(旧Twitter)などのSNSによる情報発信といった集客を計画的に続けていかなければなりません。
個人や年商1億円以下の法人に 無料/有料ASPのススメ
ECサイト運営が初めてで、最初は小さくスタートさせたい場合は、必要最低限の機能がそろったASPがおすすめです。無料と有料があり、どちらも初期費用はほとんどかからず、即日からスタートできます。
ASPとは
ASPは、パソコン上ではなくインターネットを経由して、オンライン上でソフトウエアやアプリケーションを利用するサービスおよびサービス提供会社のことで、ECサイト用以外にもいろいろなものがあります。ECサイト用のASPはASPカートなどと呼ばれ、商品管理機能と決済機能などECサイトを作るのに必要な機能が一通りそろっている便利なサービスです。
ASPの特徴
ASPの特徴の一つは、ECサイト運営に必要な機能がそろっており、申し込み後すぐにECサイト制作を始められることです。早ければ数時間でECサイトをオープンできます。オンライン上にアプリがあるためパソコンなどにインストールする必要もありません。サイトのデザインもテンプレートがあり、その中から選んでいくだけですので、システムに詳しくない人でもECサイトを作ることができます。
加えて、ASPは必要な機能を組み合わせて使える点も便利です。基本となるカート機能と決済機能のほか、受注管理機能や商品管理機能、顧客管理機能、販売促進機能などを用意しているASPもあり、自社に必要な機能を備えているASPを利用すれば、それらの機能を用意する手間もコストもかかりません。
もう一つの大きな特徴は、サーバーやシステム関連の保守メンテナンスが必要ない点です。ECサイトは決済情報などの個人情報を扱うことになるため、サーバーのメンテナンスやセキュリティチェックなどが欠かせないものですが、それらはサービス提供会社が行ってくれるため、社内にシステム担当者がいない場合や、EC担当者がシステムに精通していなくてもECサイトを運営できます。
無料ASPのメリット・デメリット
ECサイト用のASPには初期費用、月額利用料ともに無料で始められるものと、初期費用や月額利用料がかかる有料のものがあります。無料ASPでは「BASE」「STORES」などが代表的です。
無料ASPのメリットは、初期費用がかからないことから最初は小さくスタートできること。さらに、サイトのデザインもテンプレートがあるため、設定の手順に従っていくだけでECサイトが完成します。
無料とはいえ、ECサイト運営に必要となる基本機能はそろっており、各社のサービスによって強みが異なります。たとえば「BASE」であれば、InstagramなどのSNS連携に力を入れているためSNSでの集客に期待が持てます。Instagramを利用する層と相性の良い商材を扱っている場合は、押さえておきたい機能です。
デメリットは取引ごとに決済手数料が発生するため、売り上げの増加に比例してコストも増えていく点です。多くの無料ASPで3~5%ほどの決済手数料がかかるほか、サービス料や売上金の入金の手数料など細かく費用が発生する場合もあります。
無料のASPは、初期費用を抑えてまずはECサイトをスタートさせることに適していますが、将来的に1億円以上の売上を狙うサイトに育てていくことを想定しているなら、手数料についても初期の段階での検討が肝要です。
有料ASPのメリット・デメリット
有料ASPには、ITベンダーなどが提供するもののほか、無料ASPの機能がさらに充実した有料プランも含まれます。有料ASPは多くの場合、決済手数料などが無料ASPよりも低く設定されており、初期費用や月額利用料がかかるものの、ある程度の規模までECサイトが育ってきたときのランニングコストが無料ASPよりもお得です。
ランニングコストに加え、無料ASPと比べてより豊富な機能とカスタマイズ性がある点もメリットです。たとえば無料ASPは、サイトデザインのテンプレートがあるとはいえ、種類に限りがあります。どうしても似通った雰囲気になり、レイアウトの自由度も少ないためブランディングが弱くなりがちです。一方で、有料ASPは選べるテンプレートの種類が増え、他社とかぶってしまう可能性が低くなります。
また、受注管理や顧客管理、販売促進といった機能もより充実し、使い勝手がよくなっています。クーポンの発券やポイント機能が追加できたり、受注関連では定期販売など通常とは異なる販売方式を選ぶことができたり、発送業務の負担を減らすために運送会社と連携できる機能があったり。無料ASPにはない機能が用意されています。定期販売やBtoBなど、一般的なBtoC販売方法と異なる業態の場合は、特化型の有料ASPを探すとよいでしょう。
デメリットは、自由度や拡張性に限界があるカートも多い点です。無料ASPよりは自由度が高いといっても、基本的には提供された機能やテンプレートから選んで組み合わせていくため、デザインやレイアウトにこだわりたい場合や、社内の在庫システムや基幹システムなどと連動させてユーザビリティを向上させたり、社内の業務効率にも役立てたいといった場合には難しいカートも存在します。それぞれのカートの拡張性を見極めた上で、導入を判断することをおすすめします。
構築手順
早ければ数時間でECサイトが作れるASP。ここでは一般的な流れを簡単に紹介します。
ただし、下記で紹介する手順の前に、前章で説明したようなECサイトの運営体制などについて明確にしておきましょう。また、事前準備として商品の写真撮影などをしておくとより早くECサイトをオープンできます。
- 無料ASPか有料ASPかを決める
- 申し込み
- ASPにアクセスし、テンプレートから全体のデザインを決める
- 使用したい機能をそろえる
- 商品を登録する
- 公開
特に商品登録は、最初からすべてをやろうとすると大変な作業になるため、売れ筋の商品を中心に登録しておくとよいでしょう。このとき、扱っている商品ジャンルから満遍なく掲載するのか、1つのジャンルずつ深掘りしていくのかは、自社のECサイトの特色、差別化にもつながりますので、事前に検討しておきたいところです。
カスタマイズもしたい年商5億以下の法人に オープンソース
ECサイトで実現したいことがASPの機能だけでは難しい場合、カスタマイズが可能な構築ツールを検討します。ASP以外では初期費用などが発生しますが、その中でもオープンソースは知識と技術力があれば安価にECサイトを作ることができます。
オープンソースとは
オープンソースとは無償で公開されているソースコードで、一般的には誰でも利用・改変・再配布ができるソフトウエアを指します。ECサイトに必要なソフトやアプリケーションのソースコードも数多く公開されているため、HTMLやCSSの知識があればオープンソースを活用して自社に合う形にカスタマイズしたECサイトを作ることができます。
有名なところでは「WordPress」があり、ブログだけではなくWordPressを活用してECサイトを構築している企業も数多くあります。このほかECサイトのオープンソースとしては、国内では「EC-CUBE」などが有名です。
ECサイトの売上が増え、ASPでは手数料などの負担が大きくなってきた場合や、最初から手数料負担を減らしつつスモールスタートをしたい場合にも適しています。
なお、ASPとは異なり、ECサイトを運営するサーバーや自社ドメインを自分たちで用意しなければなりません。サーバーの保守費用などがかかるため、オープンソースでECサイトを作ったからと言って、ランニングコストがかからないわけではありません。また、随時メンテナンスが必要なため、社内にシステムやセキュリティに強い人材を常時配置する必要があります。
オープンソースのメリット
オープンソースのメリットは、自分でカスタマイズできるためレイアウトやデザインの自由度も高く、ブランディングを意識したサイトづくりが可能な点です。ソースコードの再配布が自由なことから、企業や個人がプラグインと呼ばれる追加機能やテンプレートを公開していることも多く、ゼロから作るよりは格段に短い期間でECサイトを公開できます。有名なオープンソースであれば、サイト制作をするうえで便利なハウツー系の情報も多く公開されています。
知識と技術力が必要となるものの、無料ASPではなかなかできない、自社のシステムとの連動なども可能です。基幹システムや販売システムなどと連動することで、業務効率化にも着手できます。
また、ECサイトの運営を始めると、最初は想定していなかったことや、追加したい機能などが次々と出てきます。それらに随時対応し、改善とブラッシュアップを社内で迅速にできるのもオープンソースの魅力です。
オープンソースのデメリット
デメリットは、ソースコードが公開されているため、セキュリティの脆弱性なども同時に公開されていることです。有名なオープンソースであればなおのこと。セキュリティ情報を含めて作成・公開後も常に最新の情報をチェックしておき、更新パッチを適用するなどの対処が必要です。
このとき注意したいのが、カスタマイズをしている場合、更新パッチが適用できない可能性がある点です。それらも含めて、HTMLやCSS、プログラミング言語の知識と技術力がある程度求められます。
また、ECサイトの更新担当者が固定化、属人化しやすい点にも注意が必要です。ECサイトそのものの運営や店長の役割を担う担当者は固定化のメリットが大きいものの、更新作業などは誰でもできる状態が望まれます。オープンソースの場合、更新作業であっても多少のHTMLやCSSの知識が必要となるため、特定の担当者しか更新ができないとなると、ベストなタイミングで新着情報をアップすることができないなど販売機会の損失も発生します。
構築手順
ASPを利用するよりは手順が複雑化し、ECサイトオープンまでの構築期間は長くなります。ECサイトの規模にもよりますが、早くても1~3ヶ月ほどが必要です。
- ECサイト構築に適したオープンソースの選定
- 要件定義
- サーバーや自社ドメインを用意
- ECサイトの開発
- 各機能のテスト
- 商品を登録、テスト
- 公開
オープンソースは外部システムや自社のシステムの連動も可能なため、最初に業務フローを見直すことで業務効率化や生産性の向上が見込めます。ECサイト構築を機に、業務改善にも着手したい場合は、1の段階で精査していく必要があります。
拡張性と最新性がある クラウドEC
ASPでは機能が足りず、自社オリジナルの機能を追加したいけれど社内に知識を持ち技術がある人がいない。そんな場合は、ECサイトの制作を外注します。最近主流となりつつあるのが、クラウドECです。

クラウドECとは
クラウドという言葉自体は、自分のパソコンなどにソフトウエアやアプリケーションをインストールせず、インターネット上でユーザーにサービスを提供するしくみそのものを指します。
これだけを聞くとASPとの違いがわかりにくいのですが、ECサイト構築で使われるクラウドECは、ASPよりも規模の大きいECサイトの構築プラットフォームとして使用されているのが一般的です。売り上げに対する手数料の割合から見てASPが年商1億円あたりまでと言われているのに対し、年商が1億円以上であれば取引ごとに手数料が発生しないクラウドECなどによる構築がおすすめです。国内では「EBISUMART」や「メルカート」などがあります。
そのほかの違いとしては、ASPに比べて標準的に装備されている機能が豊富で、より自社の商材や業務フローに合った機能を選ぶことができる点です。合致する機能がなかった場合も、サービスによってはカスタマイズが可能です。定期販売や会員別の割引販売、ランキング機能、BtoBに関連する機能など、有料ASPの機能でも足りないような機能や、さらにそこからカスタマイズして自社のシステムと連動したい場合は、クラウドECも検討してみましょう。
クラウドECのメリット・デメリット
クラウドECのメリットは、カスタマイズ性と拡張性の高さです。ASPが、サービス事業者が用意した機能やデザインしか使用できないのに対し、クラウドECは標準装備されている機能が豊富なうえに、それぞれの企業が望む仕様へのカスタマイズが可能です。デザインに関しても、テンプレートから選ぶだけではなく、自社に合わせたデザインを依頼できるため、ブランディング強化が図れます。
また、自社でサーバーを整備する必要がなく、セキュリティやメンテナンスはサービス事業者にお任せできます。社内にシステム関係の専任者を置く必要はありません。同様に、基本的な機能の改善や追加もサービス事業者が行います。過去には、消費税率の変更や軽減税率と標準税率での登録といったECに関連する法的な変更がありましたが、通常こういった変更でシステムに関わる部分はサービス事業者が対応を行います。
クラウドECのデメリット
デメリットは、ASPに比べるとサイト構築の期間が長くなり、ECサイトオープンまで時間がかかる点です。オリジナルのデザインにしたり、機能拡張などのカスタマイズをしたりすると追加費用も発生するため、初期費用は高額になります。
また、クラウドECは月額利用料を支払って利用するため、ランニングコストもかかります。ECサイトオープン時から1億円以上の年商を目標としてスタートさせても、最初から期待する売上が見込める保証はないため、しばらくの間はコストの負担が大きい状況が続く可能性もあり、それらを含めた予算運営が必要です。
構築手順
クラウドECは基本的な機能がある程度そろっています。そこから必要なものを選び、場合によってはカスタマイズをしていきます。このカスタマイズ部分は通常のシステム開発と手順は大きく変わりません。
- 自社に適したクラウドECの選定
- 要件定義
- ECサイトの開発
- 各機能のテスト
- 商品を登録、テスト
- 公開
一度カスタマイズをすると、その部分に関して改修したい箇所が出てきても変更が難しかったり、追加費用が発生したりするため、どのようなシステムにするのか、詳細を詰める要件定義にはしっかりと時間をかけましょう。
社内システムとの連携も可能な ECパッケージ
拡張性の高さと開発費用のバランスが取れている構築ツールとして、ECパッケージも人気です。特に近年のECパッケージは、基本機能が豊富なうえにカスタマイズが可能なため、すべてをオーダーで作るフルスクラッチに匹敵するものもあり、大手でもECパッケージを導入する企業が増えています。
ECパッケージとは
ECパッケージとは、ECサイト運営に必要なカート機能や商品管理機能などがパッケージ化されているシステムのことです。カート機能などの基本機能に加えて顧客管理や販売促進機能なども兼ね備えており、一つひとつの機能の内容も充実しています。
そのため、ECパッケージを自社のサーバーにインストールすれば、すべてをオーダーで作るフルスクラッチに比べて比較的早くECサイトをオープンすることが可能です。オリジナルデザインで自由度の高いECサイトを作りたいけれど、費用はできるだけ抑えたいといった企業に選ばれています。
また、すでにASPなどでECサイトを稼働させていて、さらに売上拡大や機能拡張をしたい企業が次のプラットフォームとして選ぶことが多いのも特徴です。すでに顧客リストや在庫管理の仕組みなどがあり、それらを新しいプラットフォームでも活用したいといった場合は、連動させるためのカスタマイズが容易に行えるためです。
そのほか、自社の基幹システムと連動させたり、実店舗がある業態であれば実店舗の会員情報とECサイトの会員情報を統合・連動させたりといったオムニチャネル戦略もカスタマイズによって実現できます。
なお、ECサイトは変化が早く、数年もすると新しいサービスやフローが生まれてきます。ECパッケージを選ぶ際は、構築時のカスタマイズ性だけではなく、完成後でも機能拡張などがしやすいかといった点も考慮しておくとよいでしょう。加えて、技術的なトラブルがあったときのサポート体制の有無などもチェックしておきたいポイントです。
ECパッケージのメリット
ECパッケージとクラウドECは、豊富な基本機能に加えてカスタマイズができるなど共通するメリットが多くありますが、その中で大きな違いと言えるのが経理上の処理です。クラウドECで作ったECサイトは、ランニングコストなどを経費として計上することになりますが、自社サーバーにシステムを置くECパッケージはソフトウエアと同じ扱いになり、システム開発費用や導入費用を資産として計上 でき、減価償却の対象となります。
ECパッケージのデメリット
ECパッケージのデメリットは、自社サーバーで運用していくため、サーバーやシステムのメンテナンスが欠かせない点です。ECパッケージの基本となるシステムはECサイト構築時点が最新となります。納品後にセキュリティやバグなどの更新パッチが出た場合は、自社で対応するか開発を依頼した企業にパッチ修正を依頼しなければなりません。システムの最新性を保つことが難しい点はデメリットと言えます。
構築手順
基本的な手順はオープンソースやクラウドECと同じになります。大切なのは、1と2を決めるために行う、自社の業務フローの棚卸です。カスタマイズができるとは言え、機能追加には費用が発生します。業務フローを見直すことで機能の追加が不要になり、効率化が図れる場合もあります。
- 自社に適したECパッケージの選定
- 要件定義
- ECサイトの開発
- 各機能のテスト
- 商品を登録、テスト
- 公開
年商20億以上、オリジナルで構築できる フルスクラッチ
企業の独自性を生かしたサイトが構築できるのが、ゼロから開発するフルスクラッチです。開発費用がかかることから、大手企業を中心に採用されていました。しかし近年、クラウドECやECパッケージの拡張性が高くなったことや、コストや効率化の観点からフルスクラッチを選ぶ企業は減りつつあります。
フルスクラッチとは
これまで紹介してきた構築方法は、すべて基本となるシステムやプログラムがあります。フルスクラッチはそういった基本・既存のものに捉われず、自社でサーバーやインフラを用意してゼロからECサイトを作る方法です。
自社の業務フローや基幹システム、既存のシステムに合わせたECサイトが作れるため、独自の基幹システムをすでに構築しているような大手企業が採用するパターンが一般的。目標年商も数十億円以上、顧客数も扱う商材数も膨大なボリュームとなります。
それだけにECサイトのシステム要件は、より複雑になります。ECサイトの構築を依頼するITベンダーには、相応の技術力と組織力が必要となりますので、ベンダー選定ではその点も考慮しなければなりません。
フルスクラッチのメリット
フルスクラッチによる開発のメリットは、自社の業務フローや運用体制などに合わせて自由にECサイトが作れる点です。一般的なECサイトではなく「独自のサービスやアイデアを盛り込んだサイトを作りたい」「顧客に独自のニーズがあり、それを実現させたい」「AIを活用した分析や予測を組み込みたい」といった自社ならではの要望を実現できます。
また、自社で保守やメンテナンス、簡単な改修などが可能な場合、顧客のニーズに合わせて随時ブラッシュアップが行える点もメリットです。
ECサイトをリリースしてみると、実際に顧客が利用してみなければ発覚しなかったであろう改善点が出てきます。たとえば、カートに入れてから決済をするまでの間に購入をやめてしまうカゴ落ちが多いといったことです。自社でメンテナンスができれば、それらの原因を探り、すぐに改善することができます。PDCAを高速で回していくことで、売れるECサイト作りができるのです。
なお、ECパッケージ同様に、開発費は資産として計上ができます。
フルスクラッチのデメリット
フルスクラッチのデメリットは、費用と開発期間がかかることです。開発費用は一般的に1,000万円以上、システムの規模や内容によっては1億円以上と言われており、開発期間は数ヶ月以上、1年を超えるケースもあります。消費税率やセキュリティ面など、ECサイトの根幹に関わるような大きな変更があった場合は都度、改修を行わなければならず、追加のコストも発生します。
構築手順
手順はECパッケージなどと同様ですが、要件定義に当たり、既存システムとの連携が可能であるかの社内調査が必要です。ECサイトでやりたいことが物理的に実現可能なのかどうかなど、社内やITベンダーとの調整といった、要件定義を作るための業務が非常に重要となります。
- ITベンダーの選定
- 要件定義
- ECサイトの開発
- 各機能のテスト
- 商品を登録、テスト
- 公開
まとめ
ECサイトを作るには、基盤となる構築ツール選定が重要です。しかし、構築ツールを選定するにあたっては、自社がどのようなサービスをECサイトで行いたいのか、つまり、顧客にどのような購入体験をしてほしいのかを明確にする必要があります。
加えて、顧客の購入体験実現のためには、現在の業務フローで大丈夫なのかの検討もしなければなりません。ECサイト作りは、新しい一つの販売チャネルが誕生するだけではなく、社内の業務改善の良いきっかけにもなり、企業全体のブランディングや売上アップの起爆剤となりえるのです。