2004年の創業から今年でまる15年を迎えるクラスメソッドは、クラウドやモバイルアプリのインテグレーション、ビッグデータの分析基盤など、企業がデジタル化をするうえで必要な技術面の支援を行ってきた。社内のおよそ8割はエンジニア。とくにAWSの領域において、2019年には国内8社のみが選ばれた最上位コンサルティングパートナーの中でも、パートナー・オブ・ザ・イヤーに選出されている。
そんなクラスメソッドの創業者である横田さんが、2019年2月に新型のカフェをオープンした。完全キャッシュレスかつレジレス。ウォークスルーで商品が購入できて、来店前にアプリ上からオーダーすることもできる。Amazon Goを彷彿とさせるそのカフェにはテレビ局が取材に訪れるなど、リテール界隈以外からの注目度も高い。小売とは関係がないIT企業が商品を販売してカフェを運営する。その異色とも言えるプロジェクトの裏には、一体何があるのだろうか。
IT企業が完全キャッシュレスの新型カフェを立ち上げるまで
クラスメソッドが運営するDevelopers.IO CAFE(デベロッパーズアイオーカフェ)は、東京・秋葉原駅から徒歩3分ほどの場所にある。完全キャッシュレスのレジなし店舗。専用アプリから入店前に注文すれば、店に到着した頃に受け取ることもできる。店内のお菓子を手に取れば、ウォークスルーで自動決済。日本版Amazon Goとの見方もあるこの店舗の発端は、遡ることおよそ1年。2018年5月に、横田さんがシアトルにあるAmazon Goをクライアント20数名と訪れたことから始まった。
「最初からこういった小売の形態をやってみたかったわけではありません。Amazon Goを体験する前では、『新しいものが出たんだ』くらいの感じでしたが、実際に買い物をしてみると、『これでいいんじゃないかな』と思いました」
横田さんが感銘を受けたのは、最新の技術が駆使された店内ではない。誰でも同じ体験ができるという点だ。
「たとえば、小学生や高齢の方であれば、ECでモノを買うのは簡単ではありませんよね。どんな年代のユーザーであっても同じ体験ができるというのは、実は非常に難しい。でもAmazon Goは、アプリをインストールするところは少し手間がかかるけれど、アカウントさえあれば誰でも簡単に商品を買うことができます。裏ではもちろん、AIとかIoTとかクラウドとか、Amazonが持っている技術を総動員しているのだろうと思いますが、世代を問わず使えるのはとても素晴らしいなと。それに実際やってみると、レジも並ばなくていいし、何より楽だったんですよね。最初は会計もしなくていいので、なんだかそわそわするんですが、毎日利用していると便利なんですよ。それが実現できたらいいなと、純粋に思ったんです」
Amazon Goは無人コンビニと呼ばれているが、クラスメソッドは、ウォークスルーで商品を買えるだけではない。ドリンクの提供を行うカフェも運営している。横田さんいわく「ノリ」でこのプロジェクトを始めたときから、カフェの構想があったわけではない。半年以上を技術検証に費やしてから、これはいけそうだという感覚があり、そこで初めて、小売店の場所探しを始めた。それと同時に、いつ、誰が、何をしに、どんな頻度で、いくらくらい買ってくれるのか。そのストーリーを事細かにイメージしていった。そこで横田さんはあることに気づく。
「ただの小売店では誰も来ないなと思ったんです。せっかく場所を提供するなら、社員が集まったり、周辺住民の方が来たり、そういうコミュニティスペースとして、人が30分なり1時間なりを滞在できる空間にしたほうが有意義だろうなと。コーヒーを飲みながら打ち合わせができて、小腹が空いたらちょっとお菓子もつまめる。そんな場所にしたいと思い、技術面よりも、お客様の顧客体験をいかに心地良いものにするかをとにかく考えました。モバイルオーダーの仕組み自体も、実は2週間くらいで作ったものなんですよ」
横田さんが追求するのは技術ではなく、とにもかくにも「良い顧客体験」。その言葉は、自身のSNSの投稿にも数多く登場するが、その定義とは。
「最初から何かを決める必要はなく、行こうかなと思ったときにふらっと立ち寄ったり、ものを注文できたり。そのときに買うこともあれば買わないこともあるけど、購入するときにはあまり並ばずにスムーズに買える。家で購入するか否かを検討していたらスマホ上に追加の情報がでてきて、それをきっかけに数日後にお店に買いに行く。モノを買うって、いくつか段階があると思うんです。ネットで興味を持つこともあれば、お店で実際に見ていいなと思うこともある。お店でその場で買うこともあれば、家でもう一度検討してからネットで購入することもある。オンラインであるかオフラインであるかに関係なく、そういったそれぞれのタイミングにうまく寄り添ったサービスにしていくことができれば、お客様にも良い顧客体験を提供できるのではないかと思っています」