SHEIN、Temuの脅威から世界のEC市場を紐解く
近年、勢いが増している中国発のECサイト「SHEIN」や「Temu」は、アパレルをはじめとした豊富なアイテムを低価格で販売することで支持を集めている。こうした中国勢への対抗措置か、米Amazonは2023年12月に20ドル以下のアパレルアイテムの販売手数料引き下げを発表。2024年1月より適用を開始している。
SHEINは、米国でもZ世代を中心に支持を集め、2024年には新規株式公開(IPO)を行うという噂も出ているため、Amazonにとっても無視できない存在となっている。日本国内に目を向けても、SHEINの利用者数はZOZOTOWN超え、Temuの利用者が1,500万人を超えているとされ、App Storeのショッピングカテゴリーのランキングでも1位Temu、3位SHEIN(2024年4月2日時点)と上位を獲得するなど、既存のEC事業者にとっては脅威的な存在といえるだろう。
市場拡大、競争激化とともに多様なビジネスモデルが誕生
成熟期を迎えたEC市場は変化の時を迎えており、業界全体へ注目が集まっている。BtoB、BtoCを合わせた世界のEC市場規模は、2022年に約13.5兆米ドルとなり、2023年から2030年はCAGR(Compound Average Growth Rate:年平均成長率)15.0%で推移すると予想されている。なお、世界最大の市場は中国で、2024年にはBtoCにおける世界的な取引全体の半数を占める3.56兆米ドル規模になるとの予想もある。
中国でEC市場が発展した背景には、インターネット利用人口の多さや2022年時点で74.4%と高いインターネット普及率を記録している点、これに関連して「Alipay」や「WeChat Pay」といったモバイル決済が浸透している点が挙げられる。
中国の主要ECプラットフォームは、2022年時点で1位がTaobaoやTmallを運営するアリババグループ(Alibaba)(42.7%)、2位は京東(JD.com)(19.1%)、3位は拼多多(Pinduoduo)(15.5%)となっている。独身の日(11月11日)には、「W11(ダブルイレブン)」と呼ばれる世界最大規模のECセールが開催され、主要プラットフォームをはじめとしてECでの売上が激増するが、ライブコマースやSNSの活用による買い物ムードの高まりも、中国ECの拡大を促進する要素といえるだろう。
中国は、前出のSHEIN、Temuの米国進出・拡大と国内消費の喚起双方から、世界的な注目を集めている勢いある国であることがうかがえるが、中国に次ぐ市場規模を誇る米国では、長年Amazonがシェア1位(37.6%)を獲得。2位はWalmart(6.4%)、3位はApple(3.6%)となっている。
世界全体のEC市場規模に目を向けると、中国、米国に続くのはイギリス、日本、韓国の順となっており、アジアはEC業界全体においても主要な市場だといえる。日本も、経済産業省の「令和4年度デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査)」で発表されているように、2022年の国内BtoC-ECの市場規模は前年比9.91%増の22.7兆円、BtoB-ECは前年比12.8%増の420.2兆円と市場は拡大し続けている。
こうした市場の拡大は、多様なビジネスモデルの誕生を促進している。たとえば、自社サイトで直接消費者に商品を届けるD2C市場やサブスクリプション商材の拡大、オンラインとオフライン(店舗とECサイト)を区別せず、一貫した購買体験を提供するためのオムニチャネル、OMOの仕組み構築、SNSやライブ配信を活用した販売を行うソーシャルコマース、ライブコマースなど、近年は顧客の購買体験をより充実させるべく、様々なビジネスが生まれている。