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ECzine Day 2024 Autumn

2024年8月27日(火)10:00~19:15

押さえておきたい!ECトレンド図鑑(AD)

経営層の顧客理解が今後のビジネスを左右する 大西理氏と考える「人手不足時代に欠かせない発想の転換法」

 顧客が無駄な時間を割きたくないと考える「タイパ時代」。ECサイトに求められる役割も変わりつつあるといえるだろう。では、今多くの人に愛されるECサイトを作るには、どうすればいいのか。本記事では、1990年代からeコマースの世界に身を置くスマイルエックスの大西理氏と、2000年代初頭からシステムエンジニアとして通販・EC業界に携わるBIPROGYの村田一世氏が、それぞれの視点から輝くサービスを作る上で必要なロジックと、システムに対する考え方を語った。

前編はこちら

持続的なEC運営のため、経済施策からの脱却を

──前編では、EC黎明期からの歴史を振り返りながら、顧客体験のアップデートを中心に議論していただきました。組織内でのEC運営に対するスタンスも、歴史の中で大きく変わったかと思いますが、それぞれの視点から見えていることを教えてください。

大西(スマイルエックス) やはり、体験価値向上に目を向ける企業が増えたのは大きな変化です。黎明期の日本のeコマースは、既にオフライン販売を行っていた企業の新たなチャネルへの取り組みとして始まったケースが多いと思いますが、その目的は様々でした。周りにお手本がいない時代のことでしたし、eコマースへの理解がある企業のほうが圧倒的に少なかったのではないでしょうか。黎明期のEC担当者は皆さん孤独で孤軍奮闘だったと思います。

 一方で、ECシフトのためにある商品をECサイトで購入する場合だけ安くしたり、店舗に行くには交通費がかかるのにECサイトの送料は無料にしたりと、ある種の矛盾が生じたサービス競争が激化してしまったのも事実です。ECサイトで買う理由が「安いから」だけになってしまい、自らの首を絞めているケースも多く見受けられます。

 「安価だから購入する」のではなく、商品やサービスに魅力を感じてもらい、「手に入れたい」という気持ちから購入してもらうのが、本来の姿であるべきです。他社と同じ商品を扱っているのであれば、「その売り場で買う意味」も必要になります。

 2024年という時代になっても、いまだに「うちのお客様はECサイトを使わないだろう」などという経営者が稀にいるのも驚きですし、ECサイトの話だけでなく、顧客を理解していない経営層がいまだにいらっしゃるのも現実です。EC売上を上げたいのであれば、顧客理解をして今すぐ提供価値の創出に取り組まないと、今後生き残るのが難しくなると思います。

スマイルエックス合同会社 代表 大西理氏
スマイルエックス合同会社 代表 大西理氏

村田(BIPROGY) 顧客の動きがEC起点になったことで、この数年、EC化率が上がった企業も増えている印象です。すると、さらに充実した体験を提供しようと開発規模が大きくなりがちですが、EC事業単体で見て「予算感が合わないから」と難航するケースもあり、もどかしさを感じます。店舗も含む、企業全体の取り組みとして設計と投資判断をする必要があると思うのですが、大西さんはどうお考えでしょうか。

大西 オンラインの取り組みは数値で結果が返ってきますが、目に見える形で物事を捉えられないことから、経営層の理解が得られないという声も聞きます。私がECサイトを立ち上げてきた黎明期は、eコマースの常識がそもそもなかったため、上層部と戦いながら事業を成長させてきました。この状況が現代でも続いている企業は、eコマースへの投資感覚を身につけないかぎり同じ状況が繰り返されてしまいます。まずは、経営層から意識を変えていかなければなりません

村田 ECサイトを単なる「買う行為をする場所」と捉えると、創出される価値が売上だけになり、予算を取る術が狭まってしまいます。もちろん、買いやすさや売上を上げるための機能強化も大事ですが、出会いや購入後のコミュニケーションなど、プラスαの価値創出を含めた体験設計をどう行っていくか。それによって顧客だけでなく、店舗や企業全体にどんなメリットがあるか。EC担当者がこうした課題を言語化するお手伝いを、BIPROGYもしなければならないと考えています。

大西 eコマースを使って、どのような販売戦略を立てるかも大事です。企業をご支援する際に、ECサイトの役割や全体戦略の中でのeコマースの位置付けなどを質問しても、曖昧な答えしか返ってこないことが多々あります。あくまでeコマースは手段です。ECサイトを作ることが目的になっていないか、作った後に実現したいことまで考えられているか、ぶれない軸をもつためにも、ぜひ考えていただきたいと思います。

村田 軸を考える上では、「自社がECサイトに対して何を求めているか」を明らかにするのも大事です。たとえば、ある家電量販店では「ECサイトはあくまで商品の下調べをする場所」と位置づけ、店舗への送客ツールとして活用しています。すると、「ECサイトでいくら売れた」という指標では評価できないですし、買っていただくよりも店舗に誘導しやすいUI/UXに重きが置かれるようになります。

 こうした企業と「ECサイト内で購入を完結させたい」と考える企業では、当然ながら求められる機能やもつべき指標が異なりますよね。軸がしっかりとしていれば、「今この機能がはやっているから」と流されることもなくなります。

 良質な顧客体験を提供するには、インフラと人の知識双方のアップデートが欠かせません。単なる情報収集だけでなく、目の前にいる顧客が何を求めているか、適宜ヒアリングするのも大切です。それらを踏まえて何をしたいのか伝えていただければ、当社のような支援側からもご要望にかなう提案をしやすくなります。

勝ち残るECサイトになるために必要な二つの軸とは

──EC参入企業が増えると、生き残りをかけた競争も激しくなります。限られたリソースと予算で成果を最大化するには工夫も必要ですが、企業はどんな心もちでいるとよいのでしょうか。

大西 「体験価値」に重きを置いた話をここまでしてきましたが、さらに「業務設計」も含めてバランスを取るのが重要になります。体験価値向上が大事だからといって、EC担当者や店舗スタッフの業務負荷が増えたり、通常業務に支障が出たりしては本末転倒です。双方をバランスよくできている企業は、苦境の中でも生き残っていけると思います。

村田 当社によく寄せられる相談を例に挙げると、「購入後にポイントを即時付与したい」というものがあります。システム要件上は難しいのですが、それでもやりたい理由をひもとくと、「顧客へすぐにインセンティブを付与したい」「直後の再購入を促したい」という企業側の要望が見えてきます。

 目的がはっきりしていれば、当社も「ポイント付与ではなく、購入者限定のクーポンを発行してはどうか」といったように、いただいた予算や目標とする期間内で実現可能な代替案を提案できます。目的はしっかりと定めながらも、体験をどう描くかは知見ある人の声を聞きながら柔軟に形を変えていく。そうすると、結果的に目指すゴールにも早く近づけると思います。

BIPROGY株式会社 プロダクトサービス第二本部 OBDサービス一部長 村田一世氏
BIPROGY株式会社 プロダクトサービス第二本部 OBDサービス一部長 村田一世氏

大西 やりたいことを100%実現できるぐらい潤沢な予算があれば別ですが、そんなケースはまれです。予算や制約という枠組みの中で工夫するからこそ、個性のある輝くサービスが生まれるに違いありません。

 そこには「最初からすべてをやりきらない」という考えも必要です。ECサイトリニューアルも、すべての機能が実装するまでリリースを待つのではなく、いくつかまとめて実装できるのであれば、段階を踏んで徐々にアップデートしていくのがよいと思います。

村田 トレンドや「他社もやっているから」という理由から取り入れた機能も、実際に自社の顧客に提供してみたら、思ったよりも使われないかもしれません。体験価値向上を目指すのであれば、機能をやみくもに増やすよりも自社の顧客が求める機能を導入したほうが効率的であり、成果にもつながりやすいでしょう。

 Appleのようなビッグプレーヤーですら、iOSのアップデートを絶えず続ける時代です。企業の担当者が頭をひねって考えた機能が有用かどうかを決めるのも顧客なので、声を聞いたり、反応を見たりしながら一緒に理想的な売り場を作っていく。顧客ともちつもたれつの関係になるには、こうした姿勢も大切です。

大西 予算や納期ばかりに目を向けてしまうと、たとえば「ギフト商品を多く扱うECサイトなのに、一度の注文で複数の配送先が指定できない」といったように、コンセプトと体験設計がバラバラな仕様が生まれる可能性もあります。

 もしEC担当者に専門知識がなく、要件の抜けや漏れがあったとしても、顧客の声を聞いて柔軟に動けるSaaSの仕組みを使っていれば、すぐに改善が可能です。これがフルスクラッチだと「要件定義からリリースまで半年から1年」といわれ、それまで売上を逃し続ける、といったことになりかねません。

村田 BIPROGYでも、これまであらゆるEC・通販事業をサポートしてきた知見を生かし、「Omni-Base for DIGITAL’ATELIER(オムニベース フォー デジタラトリエ)」というSaaSサービスを展開しています。様々な外部サービスと連携し、導入企業は顧客の要望や自社で実現したいことに合わせてサービスを選択可能です。

 自ら利便性の高い機能を要件定義して実装するのは非常にハードルが高いですが、世の中は既に便利なサービスにあふれています。それらと目の前にいる顧客の反応を見て、臨機応変に選択していくのが、今の時代のスピード感に適応するにはベストだといえます。

今すぐ見直そう ○○○○がボトルネックになっていませんか?

大西 今は顧客の意見を聞くだけでなく、どれだけ早く対応できるかも重要な時代です。「スピード」は物事に対応する速度だけでなく、ECサイトの表示速度にもいえると思っています。タイムパフォーマンスが重視される時代に、情報へ容易にアクセスできるはずのインターネットで見たいものがすぐに見られないのは、大きなストレスです。その瞬間の離脱だけでなく、企業やブランドそのものから離れてしまう恐れもあります。

村田 「今、どんなECサイトが求められているか」と聞かれたら、答えは「アーキテクチャに優れたECサイト」に尽きるのですが、目に見えづらいため、重要性に気づいていないEC担当者もまだまだいると思います。

 たとえば、アプリ開発時に業務設計に重きを置くと、ついWebViewを多用しがちですが、多くの場合、ネイティプのページから切り替わる瞬間に離脱が発生します。顧客に利便性を提供したくてアプリを作るはずなのに、これでは目的を達成できていません。

大西 「理想とする体験」がしっかりと描けていれば、楽なほうには流れないはずですが、たいていのプロジェクトは時間との戦いでもあり、じっくりとUI/UXの議論をする時間も確保できないケースがあります。本来であれば、リリース前にユーザーテストの実施もお勧めしたいですが、そこまでリソースを確保できない企業が多いのも現実です。

村田 支援側の立場としては、ベンチマークするECサイトを教えていただけると、優先順位や「なぜこの機能やサービスを望んでいるのか」といった判断軸が見えてくるのでありがたいですね。

──ベンチマークするECサイトは、どのような視点で選ぶとよいのでしょうか。

大西 やはり、利用者が多いECサイトです。私はAmazonやZOZOTOWNをベンチマークとしてよく挙げていますね。もちろん、事業規模や扱う商品点数、モールと自社ECで注力すべきポイントが異なる場合もありますが、顧客は「多くの人が見るECサイトにある機能=常識」と見なしがちです。慣れている体験との差異が離脱にもつながるので、参考にできるものはしたほうがいいでしょう。

 AmazonやZOZOTOWNをよく見ていると、高い頻度で改善されています。ほんの少しの調整でも、毎日続ければ1年で数百回改善を加えたことになります。こうしたチェックをしながら、自分が何をよい/悪いと思ったか記録するのも大事です。その積み重ねが、事業にも生きてきます。

村田 ECサイトのよしあしでいうと、今後はユニバーサルデザインやアクセシビリティの視点も重要になってくると思います。「かっこいい」だけを追求した独りよがりなデザインは、良質な顧客体験からかけ離れてしまいます。ブランディングの意義も、より心地よさを含むものに変わっていくのではないでしょうか。

大西 ECサイトの場合、クリエイティブは使い勝手のよさを追求した上で付与すべきものだと思います。ブランドイメージが確立されている企業ほど、世界観や見せ方から入りがちですが、どんなにデザインがよくても欲しい商品が探せず、カートに入れた後もスムーズに決済ができなければ、買っていただけません。店舗の導線設計でたとえると、わかりやすいでしょう。使い勝手が悪いと、それだけでブランドイメージを損なう恐れがあるため、非常に危険です。

村田 評価の高いECサイトは、やはり顧客起点な設計ができています。実際に他社のECサイトで商品を買ってみるのが、最もわかりやすいでしょう。

大西 自社ECをよくするヒントは、あらゆるところに潜んでいます。「勉強のために必ず購入体験をしよう」というわけではありません。いたずらのようにやりすぎるのはよくないですが、カートに入れて離脱する体験も顧客目線では必要です。

村田 ECサイトまわりのシステムをSaaSで構築していれば、よい機能を見つけたら自社でも取り入れる、といった行動をすぐに起こせます。完全に同じサービスが存在しないとしても、あるものを使って近い体験を作ることは可能でしょう。

大西 あるものでベストを尽くす発想は、これからのEC運営や事業展開に欠かせません。よく「デジタル人材を採用したいが見つからない」といった声を聞きますが、既に育っている人材は獲得競争が激しいですし、そもそも人手不足の時代で外から人を雇うにも限界があります。

 EC運営は業務内容が多岐にわたります。そのため、他部署の社員がeコマースを誤解していて、組織やECサイトそのものの成長を妨げる要因と化しているケースも目にします。基幹システムの刷新がよい例でしょう。何年も前から運用している基幹システムが、ECサイトを含めた事業成長や体験向上を妨げる要因になっているにも関わらず、既存の運用を変更するリスクが優先され、結果的にパフォーマンスが落ちているといった例もあります。ここ数年は、特にこの点を見直すタイミングだと考えています。

村田 すべてを内製化して、全員が高い理解度で事業を推進するのは非常に困難なことです。大西さんのような信頼できるコンサルタントや支援会社の手を借り、良質なプラットフォームやサービスを使いながら、マーケティングや商品開発などの既存スキルを生かしてよりよい売り場作りに注力するのが、ベストな進め方ではないかと思います。

大西 企業が使える資金や人材は有限です。これらがもつポテンシャルを最大化するための切り分けと、信頼できるパートナー探しは今後より重要になっていくでしょう。ぜひ経営のあり方から見直し、柔軟な仕組みを使いながら一緒にこれからのeコマースをよりよくしていけたらと思います。

OMO機能をオールインワンで提供する「Omni-Base for DIGITAL’ATELIER」

 Omni-Base for DIGITAL’ATELIERは、店舗とECを横断した在庫管理や顧客管理が可能なバックオフィス機能を兼ね備え、OMO戦略を実現するためのフルフィルメント業務全般をオールインワンでカバーします。本記事で興味を持たれた方は、DIGITAL’ATELIER公式サイトからお問い合わせください。

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【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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