選択肢があるだけでは支持を得られない マルチチャネルの注意点
社会情勢の影響もあり、この数年はオンラインを主軸に売上の拡張を図っていた企業も多いだろう。ところが2023年も半ばを過ぎ、物価上昇による苦しさはありながらも街中に人は戻り、オフラインの売り場も活況を見せている。伊藤氏は「売上拡大を目指すには、顧客に購買の選択肢を提示するだけでなく、商品が手に入れるまでの体験すべてを快適に整える必要がある」と語り、マルチチャネルに対応した物流環境構築の重要性を説いた。
「実店舗のみで展開していた企業がEC進出する、D2Cブランドが自社ECだけでなくモールにも出店する、POPUPを実施する、越境ECを始めるなど、『マルチチャネル』と一言にいっても、実現したいことと解決すべき課題は様々です。いずれにせよ、『顧客接点拡大により売上を上げていきたい』という考えをもっているのは共通点といえるでしょう。今回はオンライン、オフライン、越境ECの3つに大きく分けて、注意点や直面し得る課題と対策を紹介します」
モールのフルフィルサービスは、在庫回転率を念頭に
まずは、オンラインでマルチチャネルを進める際の注意点・課題からお伝えしたい。具体的には、「自社ECのみで販売していた商品をAmazon、楽天市場、Yahoo!ショッピングなどで展開する」「モールのみでEC運営をしていたが、自社ECを立ち上げる」といったケースがあるだろう。
「モール展開で速やかに、かつ効率的に売上を生み出していきたい場合は、フルフィルメントサービスを利用すると良いでしょう。Amazonは『フルフィルメント by Amazon(FBA)』、楽天市場は『楽天スーパーロジスティクス(RSL)』、Yahoo!ショッピングはヤマト運輸と共同で『フルフィルメントサービス』を提供しています」
これらを活用すると、Amazonであれば「プライムマーク」、Yahoo!ショッピングであれば「優良配送」ラベルが付与され、楽天市場であれば、土日配送の実現により翌日配達サービス「あす楽」へ対応ができる。いずれも検索結果一覧表示時に優遇されたり、ユーザーが検索時に該当する店舗・商品のみを絞り込めたりするため、露出面を増やす=マーケティング上のメリットを享受できるようになる。
「物流業務負担の軽減、リードタイムの短縮とメリットも多いですが、こうしたフルフィルメントサービスは商品のサイズと個数、保管日数を掛け合わせた従量課金となっています。つまり、在庫回転率が悪い商品を預けるとそれだけコストがかかってしまうということです」
こうした課題に対する解決策として、伊藤氏は「在庫回転率を考慮して、商品ごとに自社配送・フルフィルメントを使い分けること」を挙げた。たとえば、人気商品で1日あたりの注文件数が多く、保管日数を最小限に抑えられる商品はフルフィルメントで、動きが鈍い商品は自社倉庫からの配送にするといった具合だ。人気商品に絞ってモール展開をする店舗は、こうしたコスト削減・適正化を加味しているケースも多い。
「モールのフルフィルメントサービスを活用する場合、送料だけでなく保管費用や手数料も合わせた『1件あたりのコスト』に目を向けるようにしましょう。また、自社が『早く届けること』と『ブランドの世界観を伝えること』どちらに重きを置きたいかによっても、同サービス活用がふさわしいかどうかは変わります」
確かに、モールのフルフィルメントサービスは効率的な配送を実現すべく、封入物や梱包のカスタマイズに応じていないケースがほとんどだ。モールの購入顧客に対しても外箱や封入物などで差別化をしたい場合は、自社配送もしくはモール外のこうしたサービスに対応するフルフィルメント事業者に依頼をする必要がある。
「また、モールのフルフィルメントサービスの場合、各サービスが拠点とする倉庫に商品を預けなくてはなりません。つまり、『自社倉庫に100個、Amazonに50個』といったように在庫が分散するため、オペレーションが煩雑化します。ツールなどを使い、一元管理すればこうした問題は解消できますが、生産数量が少ない商品の場合はチャネルごとの売り逃しの懸念もあります。長所と短所を理解し、自社に合った選択肢を選ぶようにしましょう」